★塔矢さん家のお正月1★

塔矢家の正月は、とても忙しい。
元旦から名人である、行洋への客がひっきりなしである。
それは、行洋が引退した今でも続いており、彼がいかに尊敬されているかが窺えるわけだが…。

(なんで、こんなに客が多いんだ!)

毎年の事で、慣れていたはずであるが今日のアキラは、その来客の多さにいらだっていた。
もちろん、囲碁界のサラブレッド・顔は笑顔を貼り付けたままである。

(こんなに、来客続きじゃ進藤に会えない…)

自他共に認めるライバル・進藤ヒカルとは6時間程前まで一緒にいたばかりである。
それでも、アキラはヒカルの事ばかり考えてしまう。

初めて除夜の鐘を聞きに行った明治神宮は、ものすごい人手で、一緒にいったヒカルとは始終ぴったりとくっ付いた状態であった。
なんとかお参りを済ませた後に一緒に、甘酒を飲んでお好み焼きを食べて、寒空の下、一局だけマグネット板で対局をして、…。

全てがアキラにとって初めてで、新しい世界。自分でも知らず興奮していたようで、父にも言われていたのにも関わらず、正月にヒカルを家に誘う事を忘れてしまったのが今となっては悔やまれ…。

後悔の念にとらわれながら、朝方帰宅したアキラはそのまま少しだけ仮眠をとり、睡眠不足のまま、来客を迎える準備に追われていた。

それでも、ふとした瞬間に想いをはせるのは、ヒカルのことばかり。

密着しすぎたときに、ヒカルの髪が自分の顔に当たった時の柔らかさとその香り…。
寒さに鼻を赤くしながらも、屋台に目を輝かせていた活き活きした顔…。

その度に、ハッとしては自分を戒めるアキラ。

(彼と別れて何時間も経っていないのに…)

自分が彼にライバルとしてだけでない感情を持っている事に、アキラは気付き始めていた。
でも、それを認めてしまったら彼を失ってしまう気がして…アキラは、ヒカルと会ったときの喜びに反比例するような喪失感を、一人のときに感じてしまうのだった。

アキラが、一人自分の考えに没頭していると玄関が賑やかになる気配がした。

(ああ…また、来客か…)

例え来客がこなかったとて、正月の団欒を楽しんでいるであろうヒカルに会いに行く事など自分には出来るはずもないのだが…、もしも…の考えがアキラを余計に苛立たせるのであった。

 

◆2◆