--和谷1--
今日は若手だけで集まる、研究会の日だ。
(でも、今日は囲碁なしだなぁ)
研究会で集まってるのに、囲碁なしってゆーのもおかしいけど、ちょっと前の集まりのときに話が盛り上がって、俺がバイトしてる囲碁教室の子供たちの為に劇をやることになったからだ。
ってわけで、俺は最近猛烈に忙しい。劇の練習や小道具なんかも作んなきゃいけないし…、そっちにうつつを抜かしてて勝負に負けたんじゃ、師匠にどやされるから、勉強もおろそかにできないし。
(正直、結構フル回転なんだよなぁ…)
って思うけど、案外コレが楽しい。
(やっぱり、高校に行かなかったからかな。)
こういう、学芸会的なノリに俺は…いや、俺だけじゃなくて、きっとこの会に参加する奴らはみんな学校の行事なんかにも参加してないやつ等ばっかで、おそばせながらの青春(?)ってやつを楽しんでる気がする。
(俺たちは、棋士だけど…人間だから。)
だから、囲碁第一で楽しめなかった学校の行事に、どことなく未練があったんだと思う。 一番嫌がりそうだと思ってた、越智でさえ何も言わずに参加してくてるし。
(まぁ、そこは、俺の人徳ってやつかな??)
俺は、なんとなく嬉しくなって机の上を片付けた。
「和谷〜!来たぞ〜!!」
ちょうど、俺が片付けも終わって足を伸ばしてるとでかい声が聞こえる。
「おー、入れ!」
研究会のある日は、鍵なんてかけてないのに、コイツは律儀に声をかけてから入る。
それは、会を始めたころからちっとも変わらない。
「進藤、お前声でかいよ?」
ヒョコッと顔を出した、黄色い頭に向かって俺は、苦笑いを浮かべた。
「えー、そうかな?」
「つーか、インターホンあるんだけど。毎度の事ながら!!」
「だって、意味ねージャン」
確かに狭い一人暮らし用の部屋だから、チャイムを鳴らすより声をかけたほうが早いのはわかるんだけど。
(意味ねーって言われるのも、腹立つんだよなぁ。)
いつまでたっても、生意気な弟分をギャフンといわせたくて、俺は意地悪な顔を向ける。
「で、主役さんは、練習してきたのかよ?」
くじ引きの結果、彦星にきまった進藤には、和泉さんが書いた台本をよーく読むようにいってある。
(でも、コイツのことだから…どーせ、よんでねーだろうな?)
そう思って俺が、自分の台本を出してくると、奴は机の上に自分の台本を置きながら
「ちゃんと、読んだしれんしゅーもしたぜ!!」
自信満々の顔でいきまく進藤は、院生のころと変わらない。
最近、すっかり実力をつけて…いつのころからか、子供っぽさがぬけた奴だけど、こーゆー時の顔は、俺が碁会所に連れてってやった頃と変わらないくて、俺はほっとする。
俺は、進藤の手元から台本を取り上げると、
「んじゃ、練習の成果を見せてもらいましょうか?」
俺がそういうと、進藤はニヤリと笑って「いいぜ〜!」と、不敵なもんだ。
(ふ〜ん、そうとう自信があるんだなぁ?)
俺が他の役を読み、進藤の役になると間違えることなく進藤はセリフをいった。
(なかなか、やるじゃねーか?)
先週台本を渡したときは、漢字もおぼつかなくて雰囲気をだすどころじゃなかったくせに、今日はセリフを覚えてるだけじゃなくって結構演技までできてると来た。
俺が内心の感心を隠して、セリフを読み続けていると、進藤もそれに続いて、セリフをいい続けた。 全く間違えない進藤に、順調に本読みが進んで物語は佳境入る。
「『織姫、彦星よ!お前らは働きもせず遊んでばかりとは何事か?もう会うことはならぬ!!』」
俺が、織姫の父親・天帝のセリフを読み彦星のセリフを待つ。
と、何故か今まで順調に読み続けていた進藤の奴がうつむいたまま黙り込んだ。
「おい、進藤!どうした?」
奴が急に黙り込むもんだから、俺は心配になって顔をのぞこうとする。
と、何故か奴は俺の手から台本を奪うと、その中に顔をうずめて
「わりぃ、これから先はまだ!!まだ覚えてねーの!!!!」
といって、そのままブツクサいいだした。
「そ…そうか?まあ、後少しだしなんとか間に合いそうだな?」
俺がそんなことをいってると、インターホンがなる。 どうやら、他の面子が来たようだ。
「あいてるぜー」
俺は、そういうと残ってた紙コップを出しに台所に向かった。
すれ違いざまに、チラッと見た進藤の後姿から覗く耳が、なんでか赤く見えたのは俺の気のせいだろうか?
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