7/2…イベント当日
--ヒカル5--
幕が開いて、門脇さんのナレーションが流れる。
『7月7日…この日は何の日か、皆さんもご存知ですね?』
少し区切ったナレーションに、子供達の『七夕〜』って声がパラパラと聞こえて、幕の袖にいるオレ達は思わず顔を見あわせて笑った。
(ああ…なんか、色々大変だったけど…やってよかったなぁ〜)
『七夕の日は、離れ離れで暮らしている彦星と織姫という恋人達が一年に一度会うことを許される日です。』
オレは、子供達の声に上手く返してナレーションを続ける門脇さんの声を聞きながら、正直感動してた。
まだ、劇が始まってないけどそんな風に思うくらい嬉しくって、なんかチッチャイ子達の無邪気な声ってすげぇ〜!って思う。
練習の時間もないし…人手もないから、劇自体はすっごい短いつくりになってる。
ナレーションで、話のあらすじを言って、オレと織姫が出てって引き裂かれて…一年に一度会えるようになる…って所を、チョコチョコッと端折った感じで演じるだけだ。
『さて、なぜ二人が年に一度だけ会うことが許されるようになったのか…そのことをお話しましょう。』
(この後のナレーションが終わったら、出てくんだよな!) 出番まで…ちょっとずつ近づいてくたんびに、オレは心臓の音が大きく聞こえるのが分かる。
『天の川の東に住む織女は、いつもあざやかな天衣を織っていましたが、織女の父・天帝は、織女がいつまでも一人でいるのをかわいそうに思い、天の川の西に住んでいる牽牛と結婚することを許しました。』
オレは和谷に背中を押された。 「行って来い!彦星!!」
オレは和谷にうなずき返すこともできないくらい緊張して、 舞台に足を踏み出した。 舞台っていっても、講演会なんかで使う会議室をカーテンで仕切ってあるものだ。
ただ、取れた部屋がちょっと大きめだったから、携帯なんかでやり取りしてたけど…。
今時の会議室には、何故かちょっとした照明なんかがついてて、普段より明るいライトにオレはくらくらしながら舞台の中央に進んだ。 反対の袖からも、織姫の衣装を着た女の子が歩いてくるのが分かる。
舞台の上で初めて顔をあわせる…ってのも、なんだか笑えるなぁ…って思いながらオレは、彼女を見た。
「!!!!!!!」
その瞬間にオレは、一瞬目の前が白くなった。 っていうか、意識がとんだ。 セリフも忘れた。
そんなオレにはお構いなしに、目の前の織姫が微笑む。
「彦星様…いつまでも、いつも貴方とこうしていたい。仕事などせず、ずっと…片時も離れとうございません」
目の前の美人…本当に美人だ…でも…でも…
(〜〜塔矢〜〜!!!!!)
オレは、余りのふいうちに口をパクパクさせるしか出来なかった。
思わず、『なんで??』って気分で、舞台の袖にいる和泉さんに目配せしてんのに
『シンドウ・シッカリ!』と口パクで返される始末…。
つか、シッカリも何も…シッカリセリフが飛んじまいましたよ…。
オレは泣きたい気分で、目の前の織姫をにらむ。
(つか…誰も気付かないわけ?こんなでかい織姫…ありかよ??)
確かに美人だし、着物も似合ってるし、しっかり女の子だよ。セリフいう声とかも、ちょっと高くしてるしさ。
(でもさー、おかっぱだぜ?まんま、塔矢なのに何で?何で何だよ〜??)
いくら似合ってるからって、いくら時間がなかったからって、いくら織姫がいなかったからって…誰もとめなかったって事は、ヒョットして良く似た他人?
オレが、舞台そっちのけで自分の考えに没頭してると…
『ドッス!!』
強い衝撃を胸に感じて、そこを見るとオレより、でかい織姫がオレにすがりつくように抱きついてきた。
(…イッテェ…)
オレは、今の状況が理解できないで眼が点状態…でも、オレの腕の中で、
「なぜ?なぜ、何もおっしゃってくださらないの??」
織姫が、セリフを続けないオレの代わりに劇をつないでくれてる…らしい。
その瞬間、オレはある事に気付いて…それでもって、腹を決めた。
現金なもんで、腹を決めたとたんセリフも思い出せた。
(そっちがその気なら〜!!)
オレは織姫の肩に手をやると、
「織姫…私とて同じ気持ちです。」
そう言って、彼女に笑いかけた。
|