7/2…イベント当日
--明子1--
『ありがとうございました』
遠くから、声が聞こえて私は直ぐにお茶の支度を始める。
といっても、すぐに持っていけるように準備は万全だから…お湯を注いで、少し時間を置くだけ…。
(もう!どういうつもりなのかしら?アキラさんったら!!)
お茶を蒸らしながら、私は今日のの出来事を追ってみた。
中国にいた時に、アキラさんから電話で頼まれた…という院生の指導碁。
弟子以外の人には、滅多に指導碁をつける人ではないけれど…息子が久しぶり頼みごとをしてきた…という事は、手の掛からない息子に対して何かしてやることができる父親として…行洋さんも喜びを感じていた様で。
棋士としても、実力を認めている塔矢アキラという棋士が連れてくる…その打ち手に対して興味があるというのも合わせて…
(顔には出してないようで、楽しみにしていたのは分かっていたの…)
それなのにあの子ったら今朝になって 『僕は家にいないけど、彼女の指導碁をよろしくお願いします』
と言って私を…いえ、私たちをビックリさせたの。
一人息子のアキラ…あの子が女の子を連れてきた…。
正確には、連れてきたわけじゃないし…今もあの子はいないけど…。
(指導碁の当日に、相手の名前を聞くなんて…相変わらず行洋さんたら!!!)
抜けてるんだから…とため息をこぼして、蒸らしていたお茶を湯のみに注ぐ。
お盆には3つのお湯のみ。
来客様の小ぶりなお湯のみを見て、今日の指導碁の相手…奈瀬明日美さんを思い出す。
とても元気がよさそうな、可愛らしい…グラマラスな子…。
それが私の第一印象。
(でも、私には確かめなきゃいけないことがあるから!!)
そう、私がお盆に3つのお湯飲みを載せた理由は彼女に、どうしても尋ねければいけないことがあるから…。
(だって…だって…)
私は顔が赤くなるのが分かる。
以前、見てしまった息子のキスシーン。
(でも…相手は…)
彼女ではなくて…彼…。
(進藤くんがいるのに!!!)
可愛い彼女がいるなら、なぜあんなことをしたのだ!!
と、私は少々怒っていた。
ひな祭りの時に遊びに来てくれた彼を押し倒していたアキラの真剣な表情…アレが偽りだとは思えない。
口をひらけば『進藤』『進藤』…なあの子。
我子ながらあきれるくらい一途…だと思っていたのに…。
(本当に…どういうつもりなの!!??)
進藤君は…棋士として早くに育ってしまったアキラの心を開放してくれる人。 そして、碁以外に興味がなかったあの子がはじめて拘った人…。
だから、男の子だからといって、二人の仲を裂く気なんてなかったの。
むしろ…いつの間にか、いつも遊びに来て笑顔を振りまいてくれる進藤君は私のアイドルで…可愛らしい彼に、彼がアキラと付き合っているということを公表してくれたら、親の権限でいつかあんな服やこんな服を着せてみたい…などと夢を持っていた。
正直、このとき私はもしアキラさんが女の子と付き合って…結婚したら、孫ができて…その子と(で)遊べる…などということは、すっかり綺麗になかった…。
そのぐらい…私の中で、アキラさんには進藤君!!
という構図が出来上がっていたから…。
(きっと…私の勘違いよね!?)
アキラがあの子とお付き合いをしていない…ということを確かめるために私は、お盆を片手に行洋さんと奈瀬さん…という院生のお嬢さんがいる居間に向かった。
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