★永久に君と14★

THANKS 10000HIT&七夕祭り

7/2…イベント当日

--行洋1--

目の前の少女が長考に入った為、私は先ほど妻が持ってきたお茶に手を伸ばす。

私は手合いの間は、飲食をしない。
プロになってまもなく…真剣勝負の合間に飲食を取ることで、それまでの緊張感がそがれることを恐れて飲食をとる事をやめて…今までずっとそうしてきた。
それは、息子であるアキラにも受け継がれてしまっているが。

(病で倒れてからは、明子がうるさいから…)

指導碁やプライベートで打つときには、水分は取るようにしている。

だが、いざ手合いになれば妻であれ、言葉を挟める場所ではない。

(私も…夢中になりすぎてしまうから…いけないのだが。)

そんな事を考えて、夢中になって我を忘れる自分に苦笑いをし…、そんな自分に良く似ている息子のことを考えた。

(アキラは…どういうつもりであろうか?)

あのアキラが女の子を連れてきた…といっても、本人はとっくの昔に出かけていて、そっけないものだが…というのには、驚いた。
わが子ながら、浮いた噂一つない子なのだ。

(だが…それはそれで…うなずけていたのだが…)

どうあっても、あの子は私の子だ。
不器用なところは、そのまま私といってもいいほどだ。
私とて、囲碁に夢中で明子との結婚も遅いものだった。
それにあの子には…

(進藤君がいる…)

アキラが、誰よりも…何よりも…優先するとしたら、彼しかないだろうと私は思う。
なにかあったわけではない。

進藤君と出会ってアキラは変わった。
棋士として生きてきたあの子は、人間になれた。
知らず知らずに、私が押し付けてしまった塔矢アキラの息子…と言う名前から、自由になれたのだと思う。

アキラがまだ幼く…小学校に通っていた頃、あの子はプロになることに迷いを感じていたようだった。

私の子…という看板を背負い成るべくしてある道を、誰よりも碁を愛する気持ちを持ちながらも、躊躇していたのだと思う。そんなアキラが、どういうめぐり合わせか…偶々飛び込んできた進藤君と打った。

その日から、アキラは変わった。

眠れる獅子が目覚めたように。

(正直…私もあの子があんな激しさをもっているとは…)

碁を打っているときの攻めることをやめない…その姿勢は、私がよく知っている。

だが、息子であるアキラは言葉少ないおとなしい子であった。

そんなアキラが、周囲の反対を押し切ってプロではなく…学校の囲碁部に所属し周囲を驚かしたものだ。
ただ、進藤君と打つためだけに。
それほどまでに彼に固執するアキラ。アキラの成長の影にはいつだって、進藤君がいる…と私は思う。


(運命…そういったものもあるのだろう)

棋士として、あの子は幸せと思う。
同じ道を行くものを…自分と同じく競えるものを持つものとの出会い…。

(それは、どんな喜びであろうか…)

私にも一度だけ訪れた、その喜び。

私は日々の幸せ…家族や、夫婦の暖かい時間を愛しく思っている。

(だが、それとはまた違った形の喜び…棋士として闘い追い続けるものだけが知る喜びがあるのだ…)

もう…交えることはないかもしれない彼のことを…私は今も想う。
あの、一戦が私を変えた。
今まで培ってきた道を飛び出して、新たにもっと沢山の相手と打ちたいと…そう思った。
その中に彼がいることを願った。

アキラが進藤君で変わったように。

彼を待つ気持ちは…まるで、恋のように切ない。

もう打つことがないかもしれないと分かっているのに、自分と相対せるものは彼しかいないとそう思うから、私は待ち続けてしまう。

(そう…恋のように…一秒も忘れがたいのだ…)

だからといって私が、彼に恋をしているわけではない。
あの、インターネットの中の住人・SAIに。

(だが…アキラは…)

私とアキラが違うのは、アキラは進藤君に…

(恋をしている…)

という事だ。

父親として鈍い私でも、師匠である棋士としてアキラの変化は見逃してはいないつもりだ。
その眼を、日常生活と照らし合わせればおのずと答えがでてくる。

(だが…それも、仕方ないことだ)

初めて興味をもった他者である進藤君。

始まりは何かは分からない。あの子とて自分と同等の相手を見つけた喜び…その事と人を愛する気持ちが別である…という事は分かっているはずだ。例え若くても、あの子は私たちの子なのだから。

(アキラはどんなボーダーラインでも、簡単にこえてしまうだろう…)

礼儀正しく見えるあの子には、碁以外のルールなどあってないに等しいに違いない。

(所詮蛙の子は蛙…)

私の…そして、明子の子なのだ。

だから、余計に今日のこの出来事には、首を傾げてしまう。
少し前のことだ。
日本に帰ってくることの決まっていた私に、電話をかけてきたアキラが、指導碁をつけてほしい院生がいると言ってきた。
指導碁など、弟子以外にはつけないことはアキラとて承知しているだろう。
それなのに、頼んでくるというのには余程の理由…余程の相手なのか…と、私は興味をもった。
私とて親だ。
息子の頼みであれば、少々の無理ならばしてもよい。
だが、理由が気になったのだ。
アキラは、本当にこちらがおかしくなってしまうくらい他者に興味が薄い。
余程親しい人物でも…だ。
あの子が顔色を変えるのは、進藤君のことだけなのだ…しつこいようだが。

見込みのある子なのか…と聞いた。
すると、分からない…と答える。
では、親しいものなのか?と聞けば、それほどでもない…という。

首を傾げながらも、若いものと打つのも何か発見があるだろうと引き受けた。
実際、この院生の少女はまだまだ甘いところがある。
女子にしては、気の強い碁を打つので、これからが楽しみでもあるが。

(だが、アキラが気に留めるほどではない…)

そう思って私が彼女を見ると、ようやく彼女の手が動いた。

 

 

 

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