--アキラ4--
「コレで、布石は一つ…」
僕は、去っていく院生の女の子の後姿を目の端に捉えながら、つぶやいた。 口には、笑みが浮かんでいたかもしれない。
進藤は、自分の相手役である織姫はまだ決まっていない…と言っていたけれど、劇の日までそう時間もないのにそんな事があるわけないと…僕はめぼしい人物に声をかけた。それが、彼女。
進藤の、交友関係はほとんどチェックしている。 一度、彼に無理やりついて行った和谷君の研究会であった院生。 男ばかりの中で唯一の女の子は、僕の目を引いた。 といっても、彼女に異性として興味があったわけじゃない。 (進藤が…彼女に興味をもったら…) 僕ら棋士が、異性と出会う機会はそう多くはない。 今は、僕と付き合ってくれている彼だけれど、近くに女性がいればそちらが良くなってしまってもおかしくないから…。
正直、研究会でもそんなことばかり考えてしまって、進藤と彼女のやり取りばかりに注意がいってしまった。
でもその結果、彼女自身付き合っている男性がいるということと、進藤とのやり取りでお互いに異性として何の意識もしていない…ということが見て取れたので、僕は少し安心した。
僕は棋院を後にしながら、顎に手を当てた。
(あとは…、彼女に誰を紹介するか…か。)
先ほどした彼女との約束で、指導碁ができるプロを紹介しなければならなくなった。 お金のことなら、彼女には無償と称して僕が先方に支払っておけばいい。 進藤の仲間である彼女に恩を売っておくのも悪くはない。
(重要なのは、誰…を選ぶか…だ。)
塔矢行洋の息子である僕が紹介するプロ…といえば、彼女はもちろん塔矢門下のものを紹介されると思っているだろう。
本来なら、僕がすればいいところを代わりに打ってもらうには、あまり親しくない人は選べない。 かといって、親しい人間は詮索好きで何を噂されるか分かったものじゃない。 (だから、こういう事が好きそうな葦原さんも…当然、緒方さんなんてもっての外!!) 僕は幼少から親しくしている二人を、候補者リストからはずす。
(だけど、あまり身になりそうにないプロでもだめだ…僕が計画を実行するには、どうしても彼女には劇の日に、はずせない用を作ってもらうしかないんだから…)
その為には、手段を選んでいられない…。
僕は、頭に浮かんだ適任者に少し罪悪感を感じながら、意を決した。
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