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★オレとアイツの子供の日。10★


「ごめん…」

オレは小さく告げて、塔矢に抱きついた。
塔矢はそれ以上なんにも言わなかった。
多分、聞けないんだ…。

(オレがいつか話すっていったから、待ってくれてるんだろ?)

それが分かったから、オレは塔矢にキスすると

「オレに碁を教えてくれたやつ」
「進藤?」

急に話し出したオレに戸惑ったように、塔矢がオレをみる。

「この位の時期にいなくなったんだ…」

オレは、塔矢の胸に顔を押し当てる。
そうしないと、泣いちまいそうだったから。

「進藤…。」

「オレ、バカだ。大事な人の声、ちゃんと聞くって決めたのにお前にも社にも心配かけた。」

きっと他の人にだって…。

「ごめん、塔矢。今は、コレしか言えねぇ!でも…」


知らぬ間にオレは泣いてたらしい。
そんなオレの涙をぬぐうと、塔矢が優しくキスしてくれた。

「いいんだ…いいんだ…進藤。」


そうやって、何度も何度もオレの頭をなぜでくれた。
オレは不思議と、気持ちが落ち着いてくのが分かる。

強くなりたかった…誰よりも。自分の中の佐為の力を証明したかったから。
変わるのが怖かった…佐為と過ごした時期を置いてきぼりにしてしまいそうで。

でも…

「前に進むっきゃないんだよな…」

オレは塔矢の胸の中でつぶやいた。
だって、オレにはささえてくれ人がいる。
心配してくれる人がいる。

そして、見守ってくれているはずの囲碁幽霊がいるんだから…!!


オレの言葉を、静かに受け取った塔矢は

「そうだね、キミが前に進む事で、きっとキミに碁を教えてくれた方も喜んでいるはずだよ?」

同じ棋士ならば分かるはずだ…常に戦い続けるのが…常に歩みを止めないのが棋士だということを。


「塔矢…」

殆ど、何も言ってないのに…オレに言ってくれる塔矢の言葉はあったかい。
オレは、嬉しくなって…また、泣いた。

やっと涙が止まって恥ずかしくなってちょっと笑うと、塔矢も笑う。
そんな事が嬉しい。

で、その後…オレは泣きすぎたせいで緩んだ鼻をかんでいると、塔矢が

「あ、そうだ!」

と思い出したように、自分の机に向う。
オレがその姿を見てると、机から何かを取り出してオレに差し出した。

「はい、これ」

行き成り差し出された綺麗な包装紙の意味が分からなくて、オレは塔矢を見上げる。
「?なに?」

何故か照れたような顔をした塔矢は、口ごもるように言った。

「もうすぐ母の日だろ?」
「!あ~!!」

すっかり忘れていた行事にオレは青くなる。

一昨年は、イベントの後因島に勝手に行って(佐為を探してたんだけど)手合いにも行かなくなって、ものすごい心配をかけた。
去年は、折角北斗杯に応援に来たいといった母さんにきついことをいって…しかも、実は見に来てくれたらしいのに、無様な姿しか見せられなかった。
皆はオレの碁をほめてくれたけれど…、碁の分からない母さんには、オレが負けたってことしか分からなかっただろう。
(でも…ソレが事実で…本当はそれ以上でもそれ以下でもないんだ)


毎年、毎年…この時期になると心配ばっかりかけてるのに、オレはなんにも返してないんだ…。

その事に気づいて、オレは青かった顔から更に血の気が引くのがわかった。

 

◆11◆