★除夜の鐘が響く頃3★


明治神宮のある原宿駅は、特別ホームが使用されており、参道に来た人々がぱらついていた。
驚くほど、寒い。
白い息を吐きながら、暗いホームを見慣れたはずのおかっぱ頭を探すヒカル。
すると、背後から

「進藤!」
と、声がかかる。
振り返ると、探していたアキラが同じく白い息を吐きながら立っていた。

「悪い!塔矢、待った?」
「いや、僕が待ち合わせより早く来ただけだから…」

そういいながらも、彼の切りそろえられた前髪が風に揺れるのをみると、風の冷たい中待っていたのは大変な事だったろうと、ヒカルは心配になる。

「なぁ、お前…ちょっと薄着じゃね?寒くねぇの??」
「大丈夫だよ。見た目より、暖かいから」

アキラの格好は、ダウンにマフラー、帽子に手袋にイヤーマフといった防寒具の全てをそろえたヒカルとは違い、すっきりとしたもので、タートルネックにロングのコート。流石に手には手袋がはめられているが…。

「お前、それじゃ、これからスゲェー待つのに無理だろう?」
ヒカルが、心配げにアキラを見上げると、おかっぱの貴公子はムキになって

「無理なんかじゃない!君が気にしなくても、僕は大丈夫だ!!」
なんだか、駄々をこねる子供のようで…そんな、塔矢アキラを見たのは初めてではないけれど、見た事があるのは「オレぐらいじゃないかな〜」と思うと、やけに嬉しくて…。


「ふ〜ん。お前がいいなら、いいけど。でも、これは使えよ!」
といって、無理やり自分のイヤーマフと、母がしてくれたマフラーを彼に押し付ける。

「これは、君が寒くないようにしたほうがいいよ。君は、いつも鼻をグジュグジュさせているじゃないか。風邪を引きやすいんじゃないか?」
「オレのは鼻炎!!これは、母さんから無理やり持たされたんだから、いいんだよ!」

お説教でもしようとしそうなアキラを遮ると、ヒカルは彼に押し付けていたマフラーを首…というより、口元に巻いてやって黙らせる。

「これでよし!そっちは、自分でな!!」

鼻を赤くして、ニカッと笑うヒカルにアキラは黙って黄色のイヤーマフをつけるのだった。


ホームを出て、神社に移動するとソコは予想以上の人混みで…。

「これは…すごいな」
「ホント…。スゲェー…」

二人は、圧倒されながらもはぐれない様に、ピッタリと寄り添いながら、徐々に進む人並みに乗っていく。

アキラは、ヒカルと触れ合う腕から、彼の温もりを感じて身体が熱くなるのを感じた。

(さっき、彼を一人で待っていたときはあんなに寒かったのに…)

ヒカルと会った途端、そんな寒さを忘れてしまった。

彼に借りたマフラーが熱い…。

(そういえば、さっき彼もこのマフラーをしていたんだ…)

ヒカルの香りがしそうな気がして、鼻をマフラーにうずめる。
そんなアキラを下から見ていたヒカルが

「塔矢、寒いの?」

と、心配そうに見上げてくる。
いいだしっぺが、自分だし…当初の目的・アキラの誕生日を祝う…ということもあり、アキラに風邪でも引かせてしまっては、申し訳がたたない。
返事がないアキラに、ヒカルは素早く行動を起す。

「じゃ、こうしてよ!?」
というと、まるで抱きつくように先ほど以上にアキラに寄り添う。
手袋をはめた手同士で、手も掴むように握られて…。

「し…進藤!」
流石のアキラも、焦って声を上げる。

「なんだよ?」
「ちょっと、これは…。周りに人もいるし…変だよ。」

身をはがそうにも、周りは人だらけ。
身動きが取れない。

「バカ!お前が風邪引くよりマシだろ?こんだけ、混んでんだから、だれも気にしねぇって!!」
「しかし…」
「どうせ、身動き取れねぇーんだから!お前は気持ち悪いかも知んないけど、ちょとガマンしろよ!!」
そういって、自分を見上げるヒカルの顔がすごく近くて…。

(あと少し近づいただけで…キスしてしまいそうだ…)

そう思って、急に顔が熱くなるアキラ。

「ともかく、大丈夫だから!」
そういって、顔を背けるが一向にヒカルは離れない。
「だけど…も、動けねぇーんだもん。動けるようになるまで、このまんまでいるしかねーよ。」
そういうと、ヒカルはアキラの胸に寄りかかるように、顔を傾ける。

先ほどよりも顔同士の接近から免れたアキラは、そっとヒカルの顔を盗み見る。
殆ど寝そうな勢いで、目をつぶっているヒカル。
こんなに至近距離で彼の顔を見るのは初めてで…。
意外に長いまつげが見て取れる。

胸がドキドキしているのが、自分の胸に寄りかかっているヒカルに分かってしまわないか気が気でない。
(厚手のコートでよかった…)

ともかく、どうでもいい事を考えて自分の思考から、ヒカルを追い出す事に専念するアキラであった。

どのくらい、そうしていただろうか…。

「なぁ、暇じゃね?」

ヒカルが、胸にもたれ掛かったままアキラに話しかける。

「ん…、ああ…そうかな?」
「目隠し碁でもする?」
「そうだな」

アキラがホッとして、その申し出に答えると、ヒカルが可笑しそうに笑う。

「何?」
「いや〜、なんか、オレ達ってやっぱり碁から離れられねぇ〜なぁって思って。」
「はは。そうだね。でも、いいんじゃない?」
「そうだな。今年最後がお前と碁〜打ってんのって、不思議だけど…最高だよな!」

そのヒカルの素直な言葉に、胸を高鳴らせながらアキラは平静を装う。

「じゃぁ、僕からいくよ?」

 

 

◆4◆