★いらないCD★
桑原のじっちゃんは、歌が好きらしい。
でもって、よくカラオケにいっては自分の歌をCDにするらしく…。
それを、気に入った若手にくれる…ということをしているらしい。
そして、おれの手には一枚のCDが…。
ご丁寧にも、ラベルまで印刷されており、桑原本因坊のサインつきだ…。
途方にくれる俺の前で、新初段シリーズで桑原のじっちゃんと対戦した和泉さんもCDをもてあましたように見つめている。
そんな俺達を、さも可笑しそうに和谷が見つめている。
「それにしても、すげーもんもらったな!進藤!和泉さん!!」
今にも大爆笑せんばかりの和谷。
それを恨めしげに睨んでやると軽くため息をつく。
「どうしよう…これ。和泉さんどうするの?」
オレが、年配の後輩である和泉さんに意見を求めると、流石に礼儀正しい和泉さんはちょっと困った顔をしながらも
「大事に取っておくよ。それしかないだろう?」
どうやら、さっさと諦めの境地を悟ったらしい。
てなわけで、オレは家に帰ってきてCDを机の上に置いた。
机といっても、滅多に使うことはない。
書類関係や、棋譜なんかをつけるにしたって自室でやることは殆どないからだ。
そんなちまちましたことは、オレには分からないので居間に行って同居中の塔矢アキラに聞きながらやる。 …というか、大抵押し付ける。
折角だから、ちょっと聞いてみるか…と、CDをコンポにかけると行き成り、三味線の独奏。
そして、桑原のじっちゃんと思われる声のうなり声…。
これは、三味線による弾き語りなんだろうか…?
それとも、お経かなんか??
いそいで、CDを止めると、オレはさっさとCDをケースにしまい、殆ど聞かないCDゾーンへ入れ込んだ。
オレはよく物をなくすが、あんまり捨てないから大抵探せば出てくる。
ただ、探すのに凄く時間はかかるけど…。
実際、おきっぱなしにして忘れてしまうことは数知れず。(某巨漢棋士の書きかけ色紙とか…色々)
塔矢のやつは、だから部屋が汚いんだ!!捨てろ!!と怒るが…、オレとしては困ることはないので、問題ない。
大体、オレにしてみればヤツのすぐに何でも捨ててしまう事のほうが信じられない。
用がなくなったものをドンドン捨ててしまうアキラ。
オレとは対照的。
塔矢と付き合うようになって…押し切られるように同居を始めて、約二ヶ月。
まだ、日は浅いながらも…その中で、アキラが数々の物を捨てるのを見てきた。
でも、時々それが…そんな些細なことがオレを不安にさせる。
自分に必要ないものは切り捨ててしまう塔矢。
そんな潔い所が、好きだけど…。
いつか…オレが…アイツに必要とされなくなったら…?
そう考えると、オレはいつも胸が詰まってしまう。
くだらないことを考えてると思う。
自分でも、馬鹿らしいことだと思う。
でも、一人でいると…形のないこの関係は…オレを・いつかの終わり・への考えに引き込んでしまう。
オレはドンドン塔矢がいることが、普通になっていく。
ドンドン捨てられない思い出が増えていく。
オレからは捨てられないから…。
塔矢みたいに捨てられないから…。
だから、怖い…。
また、一人置いてかれちゃうんじゃないかって事が。
CDもかかっていないのに、コンポの前でじっとしていると、いつの間に帰ってきたのかアキラが後ろから抱きついてきて、オレはマジびびりをしてしまった。
「おわっ!びっくりした〜」
「ふふ。驚かしてごめんね。でも、部屋に入ってきても全然僕に気付かないから。どうしたの?」
「別に…。」
「ふぅん。」
オレの耳元に、鼻をうずもめるようにして塔矢が、うたがわしそうにしている。
オレは、もしすてられたらと思って暗くなってました!なんて、死んでもいえない!!と思って話を変えることにした。
「あの…今日、桑原のじっちゃんからCDもらっちゃってさ。自作のヤツ。お前もらった?」
「ああ…もらったよ。」
「ひっで〜もんだったよな。なんか、お経みたいな唸り声が入っててさ。オレびっくりしちまった。」
オレが、思い出してクスクス笑うと塔矢がオレに覆いかぶさるように体重を乗せてくる。
「なんだよ〜。オモテェな?お前、あれどうするの??」
心地よい重さを、背中に感じながら斜めに塔矢を見上げると、ヤツは左程面白くもなさそうに
「もう、捨てたよ」
と答えた。
オレはその答えに、先ほどの暗い考えが思い出されて、スーと身体が冷えてくる気がした。
「なんだよ…。それ…。そりゃ、もらって困るもんだったけどさ。」
「感想は聞かれるだろうけど、家に一枚あるから一度だけ聞いたことがあったし…まさか、持ってるか確かめられることもないと思うから…もってても聞かないものだし捨てたよ。」
「…。お前、そうやって何でも簡単に捨てるんだな!!」
オレは、分けもなく…子供の駄々のように…腹が立って、オレに張り付いていた塔矢を振り払らう。
「進藤…。急にどうしたの??」
塔矢が訳が分からない…という顔でオレをみる。
そりゃ、お前にはワカラネェだろうな。
置いてかれる恐怖も。
お前なしじゃいられない、困った身体も。
甘やかされる優しさになれちまった心のことも。
お前が好きだって事も…。
オレは、急に目に涙がにじんで来て、悔しくて後ろを向き、塔矢に向かって枕を投げる。
「出てけよ!」
「進藤?どうしたんだ、急に!!」
「いいから、出てけよ。こんな風に思うのはオレだけなんだから…お前にゃワカンネーよ!!」
オレは、急に熱くなってがむしゃらに、手を塔矢に向かってばたつかせる。
本当に駄々っ子だ…。
でも、そのときのオレは、口に出せない気持ちを分かってもらえない苦しさで…。
そんなオレの手を、ぐっと掴むと塔矢がオレをじっと見据える。
「進藤!行き成りどうしたんだ?!言ってくれなくっちゃわからないだろう?僕の何が気に入らないんだ?」
そう真っ直ぐな瞳で問われ…いえるはずのない言葉を飲み込むように俯くとオレは、悔しさに涙を流す。
こんな風に、涙を見せたくはないのに…。
俺の気持ちとは正反対に、とめどなく涙が流れ…そんなオレをアキラは困ったように見つめている。
こんな風に困らせてばかり…。
そして、きっといつか捨てられるんだ。
どんどん、暗い方向へ気持ちが傾き…、身体の力がすべて抜けたようになってしまうと、アキラが優しく抱きとめてくれた。
「進藤…僕がものを捨てるのが気に入らないの?」
「……」
オレが何も言わないので、先ほどからの会話の流れでアキラも何かを感じたらしく話しかけてくる。
オレは、軽い放心状態でヤツの心地よい声を聞いた。
「確かに、僕は簡単にものを捨てすぎてしまうかもしれない。だって、僕は君と囲碁以外興味がないから。その二つを両手にもったら、もう後は手にもてないから後は捨てるしかないんだな。」
馬鹿みたいに自分自身で納得してる塔矢の顔を驚いて見上げると、ヤツはちょっとてれたように笑い
「でも、確かに桑原本因坊のCDをすてるのはまずかったかもね。いくら興味がないとは言え、先輩棋士の思いのこもったものを捨てるのは、礼儀に反したかな?」
ちょっと反省したように眉をよせるアキラをみていたら…いままでの不安がうそみたいにひいてしまって…オレこそ馬鹿みたいに泣いていたことが、恥ずかしくって。
また俯いて、抱きしめてくれる塔矢の胸に顔を擦り付けた。
そんなオレを、コイツは優しく優しく抱きしめてくれる。
そして、オレの耳元に口をつきるように囁く。
「でも、進藤はもう少し物を捨ててくれなくっちゃね。」
僕が、もっと君の中に入れるようにね…。と苦笑いのような声が聞こえて…オレは、こいつとの関係に、ちょっと自信が持てた気がした。
◆アキラ版をみる◆
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