★ホワイトデーdeセレナーデ6★

「お帰り、遅かったな?」

コーヒーの効き目が出てくるのには、しばらく時間がかかるだろう…と踏んではいたが、中々効き目が現れないので一先ず、葦原と分かれて、ヒカルのまつマンションへ帰ってきたアキラだった。

(一緒にいる時に様子が可笑しくなったら、進藤に疑われるかもしれないし…。)

どこまでも、ヒカルのことしか考えていないアキラ。
が、どうもお腹の様子がおかしい。

(?何だろう…?さっきの苦いコーヒーが悪かったのかな?)

愛しい恋人が、折角出迎えてくれたのに、冷や汗をかきながらトイレに向かう。

急激な痛みは一向に治まる気配が見えず、

「おい、塔矢大丈夫か?」

とりあえず、トイレから出てきてげっそりしているアキラにヒカルが心配そうに駆け寄る。

(そんなに、僕を心配してくれるのかい?)

と、キュンとなりながらも、慣れない痛みにいつもならすぐにでも襲い掛かるところだが、

「大丈夫だよ。なんだか、おなかが冷えたみたいだ。ちょっと、横になればよくなるよ。」

と、弱弱しい笑顔を見せる。

そんなアキラになんとも言えない心配そうな顔で、ヒカルが

「そうか?じゃあ、ちゃんと寝ろよな?」

と、ベットまで付き添い、布団をかけてくれる。
だが、結局痛みは引かず、何度もトイレとの往復を余儀なくされたアキラだった。


イベント当日…つまり、ホワイトデー当日。
夜中、腹痛に悩まされたアキラは寝込んでしまっていた。

「塔矢、オレ行くけど…大丈夫か?」
「…大丈夫だよ…」
「棋院には、連絡しといたからさ、病院いけよ?」
「…分かった。キミも気をつけて。」

まともに顔を見ることも無く、ヒカルが居なくなった気配を感じて、アキラは悲しくなって涙がにじんでくる。

(僕は…何をやってるんだろう?)

愛しい恋人と一緒に甘いときを過ごしたかっただけなのに。
自分は寝込んでいて、傍に居て欲しい彼は誰か知らない女性たちと一緒に、自分と過ごすはずだった時間を過ごしているのだ。

(結局は、僕の空回りなんだろうか?)

自分の想いから始まった関係には、どうしても自信が持てなくて…少しでも自分を彼に植えつけたくて、一生懸命彼だけを追っているけれど…

(本当は、進藤は嫌なのかもしれない…)

具合の悪いときには、悪いほうへばかり思考が行ってしまう。
また、悲しくなって情けなくも涙が出そうになって、サイドテーブルのティッシュへと手を伸ばして硬いものに手があたる。

(?)

それを取り上げると、

(進藤がくれた…)

バレンタイに恋人がくれた、贈り物の香水瓶だった。
自分の為に、いくつもあるにおいの中から選んだというその香りは、アキラにとってもヒカルにとってもお気に入りのものだった。
それをくれた時の、赤くなったヒカルを思い出す。
困ったように、恥ずかしそうに…それでも、自分を思って、送ってくれた贈り物…。


(そうだよね。僕は、キミを信じるよ。これをくれた、キミの事を)


そんな事を考えながら、まるで恋人とつながっているかのように瓶を抱きしめて眠るアキラであった。



 

◆7◆