★ホワイトデーdeセレナーデ5★

「…ありません」


葦原が悔しそうに、頭をもたげると、

「ありがとうございました」

アキラからもため息が漏れる。

(予想外に時間がかかってしまった)

どこまでいっても、先輩として認めていないのか?と突っ込みたくなるようなアキラの思考だが…

(これで、イベントへは僕が行くことになりそうですね?)

そんな不届きな事を思いながら、次の計画へ向けて口を緩ませる。


ギャラリーが口々に、検討を始める中

「じゃ、葦原さん行きましょう?」
「へ?どこへ??」

カタン、と席をたったアキラを不思議そうに見上げる葦原ににこやかに笑顔を向けながら、

「だから、僕のお願い聞いてください」

そう言いながら、さっさと帰り支度をする。

残念そうな、客や市川に満面な笑顔で

「すみません、また来ますから」

そういいながら、アキラは葦原を連れて碁会所を後にする。

「お〜い、アキラ、どこ行くんだよ?」

どんどん歩いていってしまうアキラに、仕方なくついてきた葦原だったが、あまりに不可解なアキラの行動に疑問を投げつけずにはいられない。

「僕にコーヒーをおごってください。」
「へ?そんなんで、いいのか??」
「はい、結構です。丁度喉が渇いたもので」

アキラはにこやかにいうと、近くにあったコーヒーショップに入る。


「いらっしゃいませ!」

アルバイトらしき学生に二人分のコーヒーを頼むと、葦原が会計をしている間にコーヒーが出て来た。


アキラはコーヒーが二つ載ったプレートをつかむと、

「じゃ、僕持っていってますから。」

と言残し、2階のフロアへ上がる。
平日の日中である。
客はまばらで、1階でも十分座れるのだが、

(少しでも時間を稼がなくては…)

アキラは2階の中でも奥まった、すぐにみつからなそうな所に席を取ると、コーヒーの一つに胸のポケットから取り出した粉末を入れ、かき混ぜる。

(ごめん!葦原さん!!)

別に葦原を眠らせてどうこう…とか、そういう古い手口で薬を盛っているわけではない。

(進藤の先輩のなんとかさんが、体調不良で進藤がイベントに行くことになったのなら…)

葦原が、前日にひどい腹痛に襲われれば自分が代わりにイベントに行ってもおかしくはない。


(あとは葦原さんがこれを飲むのをまつだけ…)


そう、アキラがコーヒーに入れたのは、強力な下痢剤であった。
どこまでも、目的のためには手段を選ばない男である。

程なくして2階にあがってきた葦原が、アキラを見つけ、アキラもそれに気づいてにこやかに手を振る。


「こんな奥にいたのか?探しだぞ。」

そういいながら、アキラの横に腰を下ろす葦原に、アキラはコーヒーを差し出す。
もちろん、薬が入っているほうのだ。

「すみません。落ち着いたところのほうがいいかと思って。」

そういいながら、自分のほうにも、コーヒーを引き寄せる。


(早くのまないかなぁ?)

そう思いながら、葦原の様子を見守っていると

「あ、砂糖がないなぁ〜」

そう言いながら、プレートの上のペーパーナプキンをどけている。

「あ、ごめんなさい。僕が使わないから、気づきませんでした。」

そう言いながら、アキラは席を立って砂糖を取りに行く。

(飲んでもらわないことには!!)

普段は、恋人以外には尽くさないアキラだが…今日は、このコーヒーを飲んでもらうためになら、なんだってやるぐらいの機敏さで、砂糖とミルクを葦原の前に届ける。

「サンキュ、アキラ!」

そう言いながら、葦原は砂糖とミルクをたっぷり入れてコーヒーに口をつける。
それを見届けて、ほっとしたアキラもノンシュガーのまま、コーヒーに口をつける。
チェーン店のコーヒーは、煮立ちすぎたのか妙に苦すぎて、少し顔をしかめながらも、

(よし、これで14日は進藤と一緒にホテルで、一夜をすごせるんだ!!)

仕事である以上、群がってくるであろう婦女子が邪魔だが、そこらへんは贅沢はいえないし、何とでも出来る。

(狼の群れからキミを守るのは、僕だけだ!!)

そんな事緩む口元を引き締めるために、アキラは苦いコーヒーを飲み干した。


 

◆6◆