★ホワイトデーdeセレナーデ3★


思いもよらず、気に入った携帯を手に入れたアキラは、その足で父親の経営する碁会所へ向かう。

「あ、アキラ君いらっしゃい」

受付にはいつものように、市川がうれしそうな笑顔で迎えてくれる。

「こんにちは、市川さん。」

そう言いながら、目的の人物を部屋の中央にみつけ、アキラも思わず笑みがこぼれる。

アキラの笑顔に、見とれてしまっている市川を置いて、アキラは中央へと進む。

「お、アキラ?珍しいな〜、最近はここにはあんまり来ないのになぁ。」

そういって、顔を上げた葦原に、アキラはにこやかに微笑み奥の席を指差す。

「こんにちは、葦原さん。後で、僕とも打ってくれませんか?」

葦原の目の前にいる、年配のお客との対局は、もう終局まだわずかだった。

「ああ、いいですね〜。若先生の対局!見たいなぁ〜。」

年配の客は、自分との対局よりそちらに心を奪われたように、目も輝かせる。

「嫌だなぁ〜、林さんったら。じゃぁ、終わったら打とうな、アキラ。」

その答えに満足して、窓際に移動するアキラ。

『プルル〜♪』


窓際の席に落ち着くと、電子音が鳴り響く。
買ったばかりの自分の携帯をみるが、着信はなく…

「あ、オレでした!ちょっとすみません。」

そういいながら、離れた席の葦原が電話に出るのがわかる。
アキラはそれを、横目に見ながら、自分の新しい携帯をもてあそぶ。
以前は、携帯のような機械は好きではなかったし、携帯を持つことで何かと制限される自由が嫌だった。
でも、今は違う。

(ほかの人からかかってくるのは、迷惑だけれどね…)

たった一人のいとしい人とつながれる手段ならば。
可愛い恋人に縛られるのであれば。

(便利な道具だと思わなければ…ね。)

そう思いながら、今思っていた恋人・ヒカルへメールを打つ。

『新しい携帯購入しました。少し用を済ませていくので、2時間後戻ります。早くキミに会いたい。』

北島などが見てしまったら、若先生が病気だ!!と騒ぎ立てそうな笑顔を浮かべながら(幸い、うつむきながら携帯を打っていたので、誰もその様子には気がつかなかったが…)用件と、愛のメッセージを入れてメールを送信する。
本当は、もっと思いのたけを送りたいのだが…彼の恋人が恥ずかしがって

(落としたらどうするんだ!とか、忘れたらどうするんだ!!とか…そんなことばかり、気にして…)

制限されてしまう、自分の彼への思いに、どうしても納得いかないアキラだった。


そんなこんなで、アキラがヒカルへと想いをはせていると、

『ガタッ』

目の前の椅子が動き、客との一局を終えた葦原が腰掛ける。

「お!アキラ、携帯新しくしたのか?」
「はい、昨日壊れてしまって。」
「電話番号は変わらないんだよな?」
「はい。」
「あれ?それってテレビ電話ついてるやつ?」
「え?ええ、よく分かりましたね?」
「オレもそうだもん♪」

ほら〜、と自分の携帯をアキラに見せながら葦原は至って楽しそうだ。


その笑顔に、なぜだか、いつもの葦原らしくないものを感じながら

「こっちこそ、仕事中にすみません。」
「いや、でも、本当に珍しいな。最近は、お前の方が忙しいもんなぁ」

やんなるぜ〜、と口で言いながらも、自分に向けられる瞳は優しい。
この年の近い兄弟子は、きっといつまでたっても自分の友達で…。

そんな、お兄さんオーラたっぷりで自分を見つめる葦原に、今からしようとしている事を考えると、少し胸の痛むアキラであった。

(葦原さん、すみません。目的の為に、手段を選べない僕を許してください。)

選べない…じゃなくて、選らばねぇーだけだろ!!とヒカルがいたら、突っ込みそうなものだが、ここには運がよいのか悪いのか、彼はおらず、アキラの暴走を止めるものは、当然いなかった…。

 

◆4◆