★ホワイトデーdeセレナーデ★


ホワイトデーが2日後に控えていたその日、進藤ヒカルは言いづらそうに彼の恋人の前に立った。
彼は、恋人である塔矢アキラがこの日に何かを企んでいることを知っていた。

(なんか企んでるこいつと14日をすごすなんて、危険すぎるぜ!)

その為…どうにか逃げ出すことを考えていただけに、内心では喜びまくっていたのだが、そんなことがバレては、ひどい目にあうのは、目に見えているので…ヒカルにだけは妙に敏感にセンサーを働かせるアキラに向かって、困ったような顔をして事実を告げる。

「あのさ、塔矢」

呼びかけられた瞬間に、アキラは嫌な予感に包まれた。
出来ることなら聞きたくない!そんな気すらする予感を感じた。
こんな風に彼の恋人が、自分に話しかけるときは決まって、何か嫌なことがあるときなのだ。

「なに?進藤。もう寝る?」

そう言いながら、すばやくヒカルへと手を向けて抱きしめようとすると、ヒラリと身をかわされる。

「そうじゃなくって、あのな、オレ14日家にいないからさ」

アキラの次の手に備えて、距離を保ちながらヒカルはできるだけサラっと告げる。
が、ヒカルの思っているとおり、その日に前回のバレンタインで過ごせなかった甘い時間の取り戻すべく(ある意味甘くはあったが…)計画を練っていたアキラは、一気に眉が上がった。

「なんだって?」

端正な顔を怒りにゆがませる様子に

(こえぇぇ〜)

と、ヒカルは内心ビビリながらも、ココを押しきらなければ自分の身が持たない。

「だから〜、14は仕事で地方なんだって。」
「そんなのは聞こえている。何故仕事なんだ?その日は…」
「ストッープ!何でったって仕方ないだろ?今日急に変わってくれって言われたんだからさ。」

ホワイトデーである3月14日に行われる棋院主催のイベントは若手と中堅を中心とした 構成でくまれていたが、当初ヒカルの名はなかった。
というのも、人気の若手で若い女性客を呼び込みたいという声と、その為に中堅の気を損ねては…という配慮がなされ、結局 囲碁界でも、ずば抜けた人気を誇る若手陣からはアキラとヒカルの名前がはずされたのだ。
だが、中堅にさしかかろうという冴木が一足遅くインフルエンザにかかり、イベントに出れなくなってしまったのだ。

「って、わけでオレが行くことになったの!!」
「一体、どういうわけだ!!!」
「だってさ、オレは冴木さんにはプロになった時に世話になったし、勉強会じゃ結構おごってもらったりしてるしさ。困ったときはお互い様ジャン。」

本当は、冴木がインフルエンザで倒れたと聞いた瞬間に、事務局に自ら立候補して…冴木にも猛アピールして、「進藤君も若いね〜」と事務局の人に笑われ、冴木には「お前は囲碁にしか興味がないと思ってから、オレは嬉しい!!」と何故か泣かれてしまったのだが…。

(そんな事いえねぇ〜)

ヒヤヒヤして、相手の出方を待っていると、アキラは益々眉を吊り上げて、

「!キミは!!その冴木という人にどんな世話になったんだ!」

アキラの素っ頓狂な突っ込みに一度に拍子抜けしたヒカルだった。

「?あ?えっと、色々プロの手合いの様子とかそーいうの?説明してもらったんだっけかな。」

思い返すようなヒカルに迫りながら、覚えのない先輩棋士への怒りがつのる。

(インフルエンザにかかるなんて、プロとしての健康管理がなっていない!!それにしたって、彼にプロの様子を手ほどきしたって??っく!あの頃僕は、彼を無理に無視していたから!!なんてことだ…いますぐ、あの日に戻って、君をこの手で連れ去って、僕が棋院中を案内してあげたい!!)

(それにしても、緒方さんがもっと強く進藤をうちの勉強会に誘ってさえいれば、僕が結構にといわずに、毎度…いや、それ以外でだっておごってあげれたのに…。)


怒りのせいで思考が滅茶苦茶になって、最終的に兄弟子に怒りをぶつけるとアキラは、ヒカルの前に歩を進める。

「進藤、僕も行くぞ!」
「は?」
「キミが、うちにいられないのは分かった。」
「あ、うん。サンキュ」
「だったら、僕もここにいても仕方ない。」
「じゃ、実家にでも帰れば?」
「ふざけるな!!」

そういうと、アキラは携帯を取り出す。

「おい、お前なにしてるんだ?」
「今から事務局にかけて、僕もいける様にしてもらう。」
「あのな、これ以上迷惑かけるなよ…」
「迷惑とはなんだ!!」
「だってよ…。急遽、参加する棋士が変わっただけでも、事務局じゃ大変じゃん。それなのにさ…。」
「僕がこんな下らないイベントに出るといってるんだ!」
「お前だから、余計に皆困るんだろ?今回、オレとお前はわざとはずされてたんだからよ。」
その意味わかってんの?とヒカルがアキラの携帯を取り上げる。

「何するんだ!」
アキラも、黙ってはいない。
ヒカルの後ろでにまわされた携帯を取り返そうと、手を伸ばす。

「わ!馬鹿!!離せよ!!!」
「キミこそ離せ!」

少し体格差が出てきてしまった二人だったから、ヒカルが頑張って手を後ろにやっても簡単にアキラに手を伸ばされてしまう。
ヒカルが、あせって手を振るとアキラもそれを追っかける。

「とった!!」
「離してねーだろ。」

アキラが、携帯をつかみヒカルの手から引き離そうとして、

『スポン』
携帯が二人の手から離れ、宙を舞い…そして、運悪くダイニングキッチンの水場にダイブしていった。

「うそ…」

あまりにありえない事に、ヒカルは立ち尽くすしかなかった…。

 

◆2◆