★星降る庭4★


黒猫は、すっかり食事も終わりくつろいだように、ヒカルに頭をこすり付けていたが、

『ピョン』

急に緒方のほうに、向くと、その膝に飛び乗ってきた。

「あ!いいなぁ」

ヒカルが、うらやましそうに見る中、膝に飛び乗ってきた猫を跳ね除けるわけでもなく、緒方が撫でてやると

「んにゃぁ」

と、非常にご機嫌の様子で目を閉じる猫に

「ねぇ、緒方先生…」
「なんだ…?」

そういいながらも、気持ちよさそうな猫を撫で続ける緒方を不思議な生き物でも見る目で、

「緒方先生って、猫好きなの?」

その言葉に、緒方の手がとまる。

「…昔のことだ。」
「うん。」
「飼っていたトラ猫がいる。」
「へえ〜」

意外な話に、目を輝かせて緒方の顔を覗き込むヒカルの顔は、すっかり少年に戻っている。
その様子に苦笑いをしながら、

「そいつはな、10年生きた。」
「うん。それって、長生きなの?」
「それなりに…な。」
「ふ〜ん。で?」
「あんまりに、そいつがマヌケだったからな。」
「嫌になっちゃったの?」
「フッ。そうじゃないさ…。生きてたときには、マヌケだと思ってた事が懐かしすぎてな…。」
「…うん。」
「他のヤツとは比べられなくて、飼えなくなった。」
「…。」
「だから、オレは個性があるものは飼わない。魚はいいぞ。みんな一緒だ。例え、死んでもまた違うやつを飼えばいい。」
「…先生…。」

そんな風に冷たい言葉をいう緒方だが、ヒカルが覗き込んだ姿はいつもよりずっと優しげで…。


「その猫はさ…先生の中で、生きてるんだね。」
「?」
「だから、先生は今でも他の猫が飼えないんだよ。」

そういって緒方を見つめるヒカルの浅い色の瞳が、まるで幼い頃に飼っていたトラ猫を思い出させる。
じっと、その瞳をみつめていると、

「きっとさ、命が終わっても…誰かがついでいくんじゃない?」
「…」
「オレや…先生がさ。」
「お前やオレが…か。」
「うん、オレはそう思いたい!」
そういうと、ヒカルは真っ直ぐ前を向く。
その瞳には、碁盤の前に座ったときのような力強さが宿っていて、緒方は「ハッ」とする。

「だから、前に進まなきゃな。」

まるで、自分に言い聞かせるかのようにうなずくと、ヒカルはもう一度緒方に顔を向け

「先生もさ、コレを機に、動物飼ってみれば!」

そういって、笑うと黒猫を抱いて

「たとえば、コイツとか!!」

そういうと、猫を緒方の胸に押し当てる。

「にゃ〜」

すっかり緒方になれてしまった猫のほうも、嬉しそうに緒方の顔を見上げる。


(確かに…こんな気持ちは久しぶりかもしれないな…)


 

◆5◆