★星降る庭2★
幸い怪我もなくまた弁償問題にもならなかった為、問題は濡れすずめのようになってしまった進藤ヒカルだけで…。
その彼が部屋に戻ってしまったので、緒方はイベント客を相手に更に酒を進めた。
その内、一人二人…と人が消えていく中、緒方も客に引き止められながら酔いを醒ますべく、外へと出る。
春の訪れた日本庭園には、桜こそ終わってしまったが、ほんのりと暖かい空気に包まれた木々が、ボンヤリとライトアップされている。
ホテルのオーナーの趣味なのか…広めにとった庭先には人気もなく酔いもさめてきた緒方は、くつろいだ気分でたばこを取り出す。
口にくわえ、火をつけようとすると…ふと耳に人の話す声が聞こえた。
静かな夜に、耳をすましてみると、少し高めの植木の方から、またコソコソと話す声が。
「ホラ、いっぱい食っておっきくなれよ!」
その声は、とても優しくて…始め、声の主に気づかなかった緒方だったが
(進藤…か?)
植込みをのぞき込むとそこには 思ったとおりの人物が なにやらしゃがみこんでいる。
「?進藤、何してる。」
一人だと思っていたところに、急に話しかけられた進藤ヒカルは
「わぁ!」
と大きな声をあげて立ち上がった。
先ほどといい、今度といい…声をかけただけで何度もこんなに驚かれては緒方も、面白くない。
「お前は…何だって言うんだ。」
そういうと、ヒカルのほうへ足を進めると、立ち上がったヒカルが何かを隠すように体をずらす。
その明らかに怪しい姿に
(一体、なだっていうんだ)
さほど、興味もなかったことだったが、ここまで「隠し事をしています」と言われると、緒方としても悪趣味な好奇心が、頭をもたげてくる。
顔以上に心でにやけながら、緒方は歩を進めた。
緒方がヒカルの顔を真っ直ぐ見ながら近づくと ヒカルは俯くようにして顔をそらす。
自分より遙かに下にあったはずの目線も 大分近くなってきた。
(だが、まだまだ俺が上だ!)
大人げなくも…、関係のないところで優越感にひたっては、ヒカルの顔以外に目をむける。
と先ほどびしょぬれになったジャージから、浴衣に着替えたヒカルの首筋に目がいった。
成長期真っただかのくせに華奢なうなじが闇夜に白くうかぶ。
ヒカルが細身のせいなのが、丁度いいサイズが残っていなかったせいなのか…浴衣が余った感のあるその着方は妙に彼を不安定にみせて、目をうばわれる。
緒方は自分の動揺に更に動揺し、何も言わずに、ただ目の前のつむじを見つめていた。
ので彼は気づかなかった…。
ヒカルが顔を引きつらせたことを。
そして足元で影が動いたことを。
「あっ!」
というヒカルの小さな声で緒方は我を取り戻す。
と、何やら小さい何かに足を踏まれている。
ふと視線を自分の下におろすと、
「ニャー」
か細く高めの声で、小さな黒猫が鳴いた。
◆3◆
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