★キミと僕とのひな祭り。5★

「あっ、塔矢〜。オレいいもん、もらっちゃった!」

居間に足を踏み入れると、とても嬉しそうな進藤が僕に最高の笑顔を見せてくれた。
僕は、その可愛らしさに目尻が下がりそうになりながら、彼が手にしているものをみて固まってしまう。

「オマエ、ちっちゃい頃ホント可愛かったんだなぁ〜。ホントに女の子より可愛いじゃん!!」
「ふふ。進藤さんもそう思う?」

進藤が、手にしているのは僕の小さな頃の写真。
着ているのはピンク色の着物で、頭にはリボンをつけている…。

僕が進藤に一番見られたくなかった写真。

「なーなー、オレ気づいたんだけどさ〜、おばさんの雛人形にそっくりなのな!!」

そう、僕がそれよりも見られたくなかったのは母のひな壇にある雛人形。
何故か、女雛の髪型がオカッパで、着ている着物がピンク色なのだ。

母はこの時期になると、ひな壇を出しては、僕の幼かった頃の写真を眺めるのが好きなのだ…。
僕は、娘を欲しがっていた母の、せめてもの慰めだと思い今まで「やめて欲しい」と言った事はなかった。

でも…。

(進藤にまで、その写真を見せる事はないでしょう!!お母さん!!!)

僕は、初めて感じる母への憤りに、拳を振るわせた。


どうも、思った以上に母は進藤を気に入っていたらしく、僕と父から進藤を拉致して言ってから話が盛り上がった結果、僕の想いでの写真を見せてしまったらしい…。

楽しそうに僕の写真を、見ながら母と進藤はまだまだ盛り上がっている。

僕がとうとう、耐え切れなくなって

「いい加減にしてください!こんな写真進藤に見せて!!進藤、キミもキミだ!!!」

そういって、進藤から写真を取り上げようとした。
でも、進藤は素早く写真を僕から遠ざけると、

「コレは、オレが貰ったんだからな!!」

そいういって、返す気配がない。

母も、僕が大声を出した事に驚いた顔で僕を見つめていた。
僕が罰の悪い顔で、進藤とにらみ合っていると…すると、今で黙って母にお茶を入れてもらっていた父が、

「アキラ、まあ…お前も座りなさい。」

と、呟いた。
なんとなく、同情の目を感じたのは気の所為ではない…と思う。


僕は、そんな目を父に向けられたのは初めてだったし、結局ずっと頭に血が上っていたみたいで…怒りは全く収まらなくて。

「いえ、僕はこれから進藤の家に行きます!」

僕が、はっきり断言すると、

「ハッ?どうしてそうなんの??」

と、進藤が間の抜けた顔で聞きなおしてきた。

「キミが、その写真を返さないというのなら、僕もそれに値する写真をキミのお母さんから頂く事にするよ。」

そうとだけ、伝えて踵を返すとコートだけ羽織って家を出た。

「ちょっと、待てよ!!塔矢〜」

背後に聞こえる、進藤の声を振り切って。


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「…今日うち、誰もいないのに…」

両親そろって旅行に行ってしまった為、進藤家は今、誰もいないのだ。
ヒカルのよびかけに耳も貸さずに飛び出したアキラには、その声は届いていなかったろう。
ヒカルは小さくため息をつく。

「進藤君…追いかけなくていいのかね?」
行洋の静かな声、固まっていたヒカルはハッとする。

「そ…そうですね。急ぎます!おばさん、ごめんね」

同じく、ボーとしていた明子もハッとしたように、ヒカルに笑顔を向ける。
その目は限りなく優しい。

「進藤さん…ごめんなさいね。アキラさんの事よろしくね。」
「ははは…。ガンバリマス…。」

ヒカルは乾いた笑いを残して、塔矢家を後にした。


 

◆5◆