★キミと僕とのひな祭り。8★

暫くアルバムをめくって…どさくさに紛れて沢山の幼い進藤の貴重な写真を手に入れて僕は、大分浮かれ立っていた。
そんな僕に、彼女が少し言い出しにくそうにしながら、

「あの…塔矢くん。」

自然と笑みが抑えられなくて、彼女に笑いかける。
何故か彼女は少し顔を赤らめながら、それでも

「あのね、最近のヒカルは…どうかな?」
「えっ?」
「私、最近ヒカルとあんまり会えてないし…いつも、塔矢君と打つって全然構ってくれないから」

最後の方は、笑いながらだったけれど彼女の本当の気持ちがしっかりと込められていた。

そして、僕は気づいてしまった。
彼女は、進藤が好きなんだ…。

だから、僕を家に呼んで最近の進藤の様子を知りたがったに違いない…。


僕は内心動揺しながらも、身についてしまった営業スマイルを浮かべる。

「どうって、元気だよ。それに、順調に勝ってるし…最近では、周りも進藤の実力を認めて一目置かれてるよ。」

僕は、表面的な…ごく囲碁に関することだけを述べる。

(キミになんて…、僕の知らない進藤を知っている君になんて…、僕が知っている進藤を教えたりしない!)

僕だけが知っている…と思いたい、彼の繊細な部分や優しい部分。我侭なところも、強気なところも…全部。

(僕だけのものだ!)

僕が、心の中で彼女に宣戦布告をしていると、彼女は何やら考え込むようにアルバムをパラパラと開く。

「昔はね…いつも一緒だったんだ。」
「……」

誰に話しかけるでもなしに、彼女がしゃべり続けるのを僕はただ聞いていた。

「周りの男の子に冷やかされたりしたけど、ヒカルはいつも私のこと庇ってくれたし…私は、ソレが嬉しかった…」
「…」
「いつか、そんな風に大人になって…ヒカルと結婚するんだって思ってたの。」

そういいながら、彼女はアルバムをあるページで留める。
そこには、先程も見た進藤のひな祭りの写真が載っている。
僕もさっき貰ったものだ。幼い進藤はふっくらした頬に笑みを浮かべて、水色の着物をきて、平安の衣装のような烏帽子をかぶっていて、とても可愛らしい。

そして、その時は目に入らなかったけど

「あれ?コレって…藤崎さん?」

進藤の隣に写っているのは、今よりも髪が短いけれど可愛らしいピンクの着物をきた藤崎あかりの姿があった。
当然といえば当然だ。このアルバムは、彼女のものなのだから…。それまで、気づかなかった僕の方がおかしいぐらいだ。

彼女は、ちょっとなつかしそうにその写真を撫ぜて

「コレはね。私とヒカルが通ってた幼稚園でやったひな祭りで、私とヒカルで女雛と雄雛をやったのよ。私、凄く嬉しかった…」

なんだか、結婚式みたいで…と彼女が続ける。
僕は、その言葉にまた気持ちがふさぐのを感じた。

女の子ならば、自然と結婚という形で彼と一緒にいられるんだ…。
ただ、生まれたときから近くにいただけなのに、彼にとっての特別な位置を持つことができる幼馴染という関係も…なにもかもが、僕を打ちのめす。

僕には…彼を縛れる関係が何もない…。


だから、いつも必死に彼を追いかけるしか出来ないんだ。
(いっそ、進藤と二人で息がつまって死んでしまえればいいのに…。)
僕の気持ちが、いつか彼にとって負担になってしまう日が…僕は恐い。

僕は、なんとなく気分が落ち込んでしまい、黙っていると


「塔矢君?どうしたの??」と彼女が心配そうに顔を向けてくる。
彼女は、きっとよく気の効く優しい子なのだろう。
だから、長い年月…進藤は彼女を信頼しているんだと思う。
でも、その優しさが、今はひどくイライラするんだ。

僕は、ガタッと席を立つと

「すみません。色々、ご迷惑おかけしました。僕は、これで失礼しますから…。」

それだけ言うと、彼女の母が引き止めるのも作り笑顔で、避けて無理やり家を出た。

僕の背後に、藤崎あかりが声をかけていたがソレさえも耳に入らなかった。

 

◆9◆

思いっきり暴走中…