★母と息子のひな祭り。4★


私が、昔を思い出してボンヤリしていると、遠くで電話の音が聞こえる。 
 
「はいはい、ちょっと待ってね〜」 
 
私は、無理やり明るく顔を作って電話の前へと急ぐ。 
 
「はい、塔矢でございます。」 

『あっ、あの…と…アキラ…君いますか?進藤ですけど…』
 
「まぁ!進藤さん?ごめんなさいね、アキラさんさっき出かけたのよ。」 

『えっ!あ〜どうしよう。オレちょっと、待ち合わせに遅れそうで…携帯に連絡したんだけど、つかまらなくって…』 

「あら…そうなの。じゃあ、うちからもかけてみるわね」 

『お願いします!』 

「あ、進藤さん、今日は家にいらしてね?」 

『え?今日は碁会所って言われたんだけど…。』 

「ふふ、きっと遠慮してたのね、アキラさん。でも、うちのお父さんが是非にって!」 

『えっ!塔矢先生が!!絶対行きますから。』 

「うふふ、待っているわね。」 

『はい。じゃぁ、とりあえず塔矢との待ち合わせに行ってきます!!』
 
「はい、お願いね。」 

 
電話を切ると、私は、さっきの憂鬱な気分を忘れて、ウキウキする。 
 
(さぁ、美味しいものをつくらなくっちゃね!ひな祭りのお祝いですもの!!) 
 
私は、自室で執筆をしている夫へ、声をかける。 

「行洋さん、ちょっと買い物に行ってくるわね。」 

「うむ。気をつけなさい。」 

手を止めて、私に顔を向けてくれる行洋さんの目はいつも優しい。
 
 
「行洋さんも、根をつめすぎないでくださいね。今日は、進藤さんが来ますから。」 

「進藤君か。てっきり会えないかと思ったが…楽しみにしていよう。」 

 
静かに言う夫だけれど、楽しそうなのが私には分かる。 
 
(だって、夫婦ですもの!) 
 
私達は静かに微笑みあって、そして私は買い物に出かけた。 
 
買い物から帰ってくると、アキラさんが進藤さんを連れて戻っていて、行洋さんと一局はじめていたので、私はちらし寿司の準備を始める。 
昔はアキラさんも好きだったものだけど。 
 
(今でも好きかしら?) 
 
いつもより多めにお米を研ぎながら、私はそんなことを考えた。 
 

◆5◆