★母と息子のひな祭り。3★
「お母さん、ちょっと出かけてきます。」
私が、出来上がったひな壇の前で、お茶を飲んでいると声が玄関からアキラさんの声がしたので、腰をあげて玄関へ行くと、すっかり出かける用意をしたアキラさんが、とても嬉しそうな顔で出かけるところだった。
「あら、アキラさんお仕事?」
「いえ、進藤と打つ約束をしているので…。」
そういって、少しバツの悪そうな顔をしたアキラさん。
私は、その名前を聞いて思わず顔がほころぶ。
「まぁ、進藤さんと?だったら家で打ってもらったら?お父さんも喜ぶわよ」
進藤ヒカル君は、アキラさんと同じ年で一年遅れてプロになった男の子。
同じ年なのに、全くアキラさんとは違う彼にはいつも驚かされて。
囲碁のライバルだと、アキラさんは言っているけれど、彼がそれだけではなく、アキラさんにとって大切な人だということは私には分かるの。
だって、彼は、今までアキラさんが一度も家に連れてこなかった、初めての友達。
行洋さんのお弟子さん達が、いつも
「進藤といると、アキラ君は年相応になるんだ」
と言っていたけれど、彼が家に来るたびに新しい息子を見ることが出来て、私は彼が来るのをいつも楽しみにしているの。
アキラさんが出かけた後、私はひな壇の下に隠しておいたアルバムを取り出して眺める。
コレをみるのは、本当はアキラさんが嫌がるので、アキラさんが出かけているときにだけしているけれど…つい、お客さんが来ると、その可愛らしさを自慢したくて何度か見せてしまった事があって…今思うと、申し訳ないことをしたと思うのだけれど…。
(でも、本当にかわいいのよ…♪)
何度眺めても、飽きないその姿に私はアルバムの表紙をめくる。
「これは、私のお下がりを着せたときのだわ〜」
うっとりと、呟きながら見つめるその写真は、小さいアキラさんの写真。
肩までのストレートの髪を、アップにして赤い着物を着ているもの。
白いレースのワンピースを着せたもの。
でも、一番のお気に入りは…
「これね!一番最後に着せたピンク色の着物!!」
頭に大きなリボンを付けたアキラさんは、とっても可愛くて…何枚もの写真を撮ったものだったわ。
でも、この写真が、アキラさんの女の子の姿の最後だったの。
何も分からない小さなアキラさんは、いつもニコニコして着てくれたわ。
でも何時からだったからしら…。
女の子の服を出すと、一瞬悲しそうな顔をするのに、あの子は私の顔を見て、笑うの。
まるで、私が女の子が欲しかった事を知っているように。
まるで、何かを諦めてしまったように。
女の子を諦めた私と同じ目をしたあの子。
そして、私はお人形遊びを卒業したの…。
自分のエゴで、あの子を不幸にしてはいけない…。
そして、その年からあの子は、行洋さんの前に碁盤をはさんで座るようになった…。
◆4◆
このアキラさんのイメージイラストはこちら
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