★母と息子のひな祭り。1★


 3月。


桃の節句は、昔から大好きな催しだったわ。
私の両親は、私をとても可愛がってくれたけれど、決して甘やかす人たちではなかったから…。
お人形を手にする事が、少なかった…。
昔からお人形で遊ぶのが好きだった私は、自分で作ったりもしたけれど…一番好きだったのは、この季節に出す雛人形。
こうやってひな壇を出す母を手伝いながら、私はお人形を見るのが好きだったの。

整った顔に、美しい着物。
代々、我が家に伝わる雛人形の女雛はそれはそれは美しくて、少し変わっているところが、ますます私のお気に入りだったわ。
普通、女雛は長い髪を高く結ったものが多い中、私の雛人形は髪を肩で切りそろえて、とても愛らしくて

(ふふふ、本当にソックリ)

私が、その顔に私の宝物の顔を重ねて、幸せに微笑が浮かんでしまう。

(そうだわ、やっぱり今年も一緒に!)

私は浮き立って、二階に向かって声をかける。

「アキラさん、ちょっとコレ手伝ってくださる?」

暫くして、息子のアキラが降りてくる。
肩までの髪が、艶やかで

(ふふ、何時見てもやっぱり似ているわ♪)

我が息子ながら、美しく雄雄しく育ったと思うのだけれど、小さい頃の可愛かった様子をどうしても重ねてしまう。

「お母さん、今年も出すんですか?」

アキラは、あまりこの人形が好きではないみたい…。
男の子だからかしら?
どんなに可愛い子でも、やっぱり、好みは男の子なのだと言う事は、小さい頃から分かっていたけれど。

「アキラさんは、ひな壇嫌いなのね…。」

私はつい悲しくなって、手に持った雛人形を見つめて呟いてしまった。

私、ずっと女の子が欲しかったの。
行洋さんと結婚して、子供が出来たときはとても嬉しかった。
男の子だと分かって、塔矢家の跡取りが出来る事も嬉しかったわ。

でも…、やっぱり女の子がどうしても欲しかったの。

だから、アキラさんが生まれて…お医者様に、もう一人子供を望む事は難しいと告げられた時、それでも良いからもう一回チャレンジがしたいと思っていたわ…。
絶対に無理…という訳ではなかったなら、チャンスにかけたかった…。
でも、暫くして家に戻ると、ある日行洋さんが私の手をとって、何も言わずにジッとしているの。
もともと体が強くなかった私。
優しい夫が見せた、初めての迷っている瞳。
私はあの日の事が忘れられないわ。

「女の子は…諦めてくれ」

そう言ったとき…あの人は、泣きそうな顔をしていた…。
女の子を欲しがっていた事を誰よりも知っていたあの人。だからこそ、私にその事を伝えるのは、とても辛かったはず。
いつもの彼を知っている人には、信じられないような苦しげで…そして、誰よりも身近に感じることが出来たの…。

(この人を一人にしてはいけない)

何時だって戦っている愛しい人。そう思ったから…、私は自分の希望を諦めたわ。

生まれたばかりのアキラさん。
可愛い可愛い息子も一人に出来ない。

私は、愛されていて…そして、彼らを愛していて、とても幸せだった。

だけど、やっぱり女の子が欲しかった…。

だから、小さいアキラさんが分からないのをいい事にあんな事をしてしまったの。
 

◆2◆