★雨のち晴れ3★
全てを無視して泣き続けて、頭が痛い。 一緒に住んでいるアキラが、帰ってきたらうるさいだろうなと、そう思うと知らず微笑が浮かぶ。 ヒカルはアキラが好きだった。 その事をきっとアキラは知らない。 だからきっと、ヒカルとキスをするとき。 少し緊張した面持ちで、一瞬ヒカルを見るのだ。 もし彼に思いを返したら…… (きっと俺、絶対お前と離れられなくなる…) 男同士の恋。 それが普通の事ではない事。周囲に後ろ指を指さされる事だということを、ヒカルは知っている。 (だから…きっと、家を守る…という事には貢献できないだろうな。) とぼんやりと以前から思っていた。 でも、それはアキラに伝えることはできない。 アキラは、囲碁界のサラブレットで、今までの人生の中において、汚点などひとつもない人間。 そんなアキラが自分を好きだと言ったことも、キスをしてきたことも、自分を押し倒してきたことも…というより、そのやり方を知っていたことも。 自分にとっての唯一の人が自分を求めてくれて嬉しくない人間がいるだろうか? でも、ヒカルはアキラに自分も同じだと…伝えることが出来なかった。 まっすぐな彼は、ヒカルの想いを知れば、自分達の関係を隠すことをなくすだろうと…、ヒカルの中の冷静な自分が囁く。 今はまだ若い二人だが、もう少し年をとれば、やれ結婚だ。 断っているらしいが、すでにそういった話がアキラに舞い込んでいることも、噂で耳に入ってくるぐらいだ。 それでも、刻一刻と、この二人だけの時間が終わりへと向かっているとヒカルは思っていた。 (言っちまったら、もう塔矢を逃がしてやれない…) ヒカルがヒカルの想いを伝えてしまえば、アキラは自分の輝かしい道を自分で閉じてしまう。 (いつか離れ離れになって…それでも、碁盤で向き合えばきっと一つになれる…。) そうは思っても、自分が思う以上にヒカルはアキラが好きだった。 でもヒカルはアキラを守りたかった。 全てがあわさってこそ、塔矢アキラ。 そんな彼を自分との関係で汚してはいけない。 だから彼を守りたかった。 佐為を守れなかった自分を攻めた。 そして、二人のリミットを心の端に感じる。 「佐為…」 そのとき、大きく扉が開いた。 「塔矢…」 そこには、今まで見たどの顔よりも厳しい表情をしたアキラがたっていた。 「進藤…」 うなるような声に、思わず体を引いてしまう。 「今、何って言ったの?」 なんの感情も感じられないようなアキラの声。 「塔矢…なに?」 今まで見たこともないような彼に、恐怖すら覚える。 「何?じゃない!!」 怒鳴られて、ヒカルは首をすくめる。 「SAIは君のなに?君がいつか…と言っていたのは…もう一人の君のなぞは、やはりSAIなの?」 ヒカルの息が止まる。 (聞かれた…) 目を見開いたままのヒカルにアキラは怒りと悲しみが襲ってくる。 「塔矢…」 足のそこから恐怖が訪れる。 (佐為のこと聞かれた…) 佐為を想って泣いていたことに気づかれた。 プライドの高い塔矢がそんな自分を許すはずがない。 (終わるんだ…) そう思うと、体中が冷たくなって知らず知らず泣けてきた。 声に出さずに涙を流していると、 「ウッ…ウッ…」 苦しそうな嗚咽が聞こえる。 「塔矢…」 驚いて、ヒカルはアキラの震える肩に手を置く。 それも顔を上げることなくアキラは嗚咽をもらした。
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