★雨のち晴れ4★


「僕は…」

小さくうめくような声にヒカルの心臓は、わしずかみにされる。

「僕は君の何?」

アキラの知りたかったこと。
SAIの謎…それよりも、それを未だに明かしてもらえない自分。

彼と自分の関係。

それが今、目の前でSAIの名を呼んで泣いていたヒカルを見て、悲しいほど突き動かす。

ヒカルの唯一でありたい。
そう思ってきた。
だからこそ、悔しくて悲しい。

頭で考えていたことなど吹っ飛んで、あまりのことに彼を傷つけそうになって、その事にまた傷ついて泣いた。
震えるアキラの肩に置かれたヒカルの手が暖かい。

「塔矢…」

静かな搾り出すような声。
ずっと泣いていたのだろう。

アキラは泣きながら顔を上げた。
自然と涙をこらえようとして、ヒカルをにらみつけるようになってします。

そんなアキラの様子に、ヒカルがまた目を見張る。

(はじめてみた…)

アキラの取り乱す姿。
冷静に見えて情熱家の彼は、自分を求めるときはとても激しい。
でも、こんな風に自分の思いをさらけ出してヒカルを攻め立てるようなことを一度だってしたことはなかった。
だから、ヒカルは気づかなかった。
アキラの孤独。
アキラの不安…。

こんな風にアキラを追い詰めるつもりじゃなかった。
傷つける気ではなかった。

守りたかったのだ…アキラを。

まるで取り残されて寂しげな大きな犬のような瞳。
こんな目をさせたかったわけではない。

(オレが気づかなかっただけ?)

アキラはいつもこんな目で自分をみていたのだろうか?

アキラを失うと…そう思って感じた喪失感は、ヒカルに思っていた以上に打撃を与えた。
痛いのだ。
心が。

それは佐為を失ったときの喪失感と同じ。

(このまますれ違ったまま…終わりにしたら、あの時と変わらない…。)

いつだって、大事なものをなくしてからそれと気づく自分。

自分のやり方は間違っていたのかもしれない…と、アキラの食いしばるような唇を見ていてそう思おう。
彼を守りたいと思った独りよがりで、彼を傷つけたことが…今ヒカルにもはっきり分かったのだ。

彼はすっかり傷ついていている。
自分のやり方は、彼を守るどころか壊そうとしていたのだ。

(まだ…間に合うだろうか?)

いや、間に合ってほしいと…。
目の前に大切な人がいるのだから、間に合わせなければいけない…と。

ヒカルは、息を吸い込む。

「塔矢…」

(そんなに食いしばったら、血が出る…)そう思って、ヒカルは細い指をアキラの唇に伸ばす。

そんなヒカルの行動に、茶化されたと思ったのか、いつものアキラとは思えないような子供っぽいしぐさで顔を振ってその手を払う。

またにらむ様に見つめられて、それでも口を利かないで口の端をムッと下げているアキラがおかしくなって
ヒカルは顔を近づけた。

「チュッ」

やわらかい風のようなキス。
1年間付き合った中で、初めてヒカルからのキス。

思わぬ行為に、一瞬呆けたような顔になるアキラをみて、またヒカルは笑って。
今度は、そのおでこに…鼻に…耳に…ほほに…。
優しくキスを繰り返す。
(お前が好き…)
と伝えたくて何度もキスをする。

たまに顔を上げると、アキラがまだ物足りない…とばかりににらみ付けるので、また笑って同じことを繰り返す。

可愛くて仕方がなかった。
あの塔矢アキラが。
可笑しいぐらいに可愛いのだ。

愛しさが胸の中に、あふれて来る。

いつだって甘やかされていたから、気づかなかった。
本当はアキラも自分と同じ年の…ゆれる心を持つ人間だということ。
こんな風に甘えたがっていたことを。

そんな風に楽しげにキスを繰り返すヒカルを見ながら、その気持ちよさにアキラはぼんやりしていた。
駄々をこねるようなことをしてしまって恥ずかしくて、またヒカルをみると、優しく微笑んでまたキスをしてくれる。

その顔があまりに綺麗で…押し倒したくなるけど、それでは何時もと同じ。
彼の気持ちを聞くことは出来ない。

(今日はもう絶対、僕からは何もしないぞ!!)

そう思って何度目かのキスを受ける。

あまりに、僕の反応がないからか進藤が困ったような顔をして、上っていたベットから僕の横に降りてくるとそのまま抱きついてくる。

「塔矢…」
先ほどと同じかすれた声なのに、それより甘さを含んでいるように思えるのは気のせいではないだろう。

「進藤…」

ようやく声を返してくれたアキラに驚いて、その顔を見ると真剣なまなざしがヒカルに向けられる。

「進藤…僕は君の気持ちが聞きたい。」

「塔矢…」

「僕は君の何? 君の過去を共有できないにしたって…、君が一人で誰かを思って泣いていても傍にいて慰めることも出来ないの?」

静かな目でアキラを見つめるヒカルに、アキラはさらに悔しそうに唇をゆがめる。

「進藤…僕は、君の気持ちが聞きたいよ。君がSAIのことをまだ話せないならそれでもいい。
でも、それと僕らの仲は別だろう?僕は君の何?僕は君を愛してる。それはそんなにいけないことか?僕には君が唯一の人だ。君に謎があるのは正直嬉しくないけど、君が君を保つために必要ならそれも仕方な…」

そこまで言いかけて、アキラは床にドスっと倒れこんだ。
正しく言うと、ヒカルによって押さえつけられた。

「塔矢…お前は、塔矢アキラだよ。」

自分より軽いヒカルをひっくり返すことなど簡単だ。
だが、あまりに当たり前のことを言われて目が点になる。

「はぁ?」

目を瞬きさせるアキラに、ヒカルは言葉と裏腹に真剣な顔でアキラを見下ろす。

「お前は、オレにとって塔矢アキラだよ。何時までも…。強くて何時もまっすぐでオレの目標。」
「うん。」
「オレ…、お前には何時までもきれいでいてほしいと思ってた。まっすぐすぎるから、オレとのことなんかでお前に傷つけたくないって…。」

思わぬヒカルのまっすぐな言葉に、アキラは目を見張る。
そんなことを気にしていたのか…と、腹も立つ。

「馬鹿か!僕は僕だ。誰にも傷なんてつけられない。君以外の誰にも…」

そう、アキラにとって自分を動揺させ傷つけさせる人物は、ヒカルだけ。

その事に気づいてなかったのか…と、ヒカルが今は憎らしい。

そんなにらみつけてくるようなアキラの視線を優しく笑顔で受け止めると、

「そうだな…。オレはそれに今気づいたみたい。」

そう言ってもう一度笑って、しかめっ面になったアキラの瞳にキスを落とす。

「オレ、お前が好きだよ。」

反則だ…とアキラは思う。

キスされて瞑った目を開けたときに目に入って来たヒカルの顔は、今までで見た中で一番輝いていて美しくて、もっと問い詰めてやるつもりだったのに何も言えなかった。

「僕なんか君を愛してる。」

憮然と伝えると、少し笑いながら狭いスペースにあいたアキラの横に体を横たえて耳に口をつけるようにして

「オレなんか覚悟したもん…」

耳にかかる熱い息にぞくっとしながらアキラは、不可解な言葉にヒカルの方へ顔をむける。

「?なにを…?」
すぐにキスできそうな近距離で、困ったようにヒカルは笑う。
「お前の未来が完璧じゃなくなっても、傍にいるって。他の人に攻められてもお前を放さないって…。それがお前の幸せだって。そう勘違いする」

消え入りそうになる語尾に、アキラは眉をひそめる。

「進藤。それは勘違いじゃない。真実だ。」

そういって、不機嫌そうに…でも瞳だけ優しくなったアキラが告げる。

その顔を見て、ヒカルは自分の今日の行動が正しかったことをしる。
何時だって自分は間違った行動をしたと後悔してきた…。
でも、今は…いや今日は…。

(きっと…後悔しない)

例え誰に後ろ指を指されたとしても、攻められたとしても…こんなアキラの幸せそうな顔をみれたんだから。
あんな不安に揺れる緊張した顔ではなく、ほっとしたような優しい瞳。

(この瞳を守っていこう…)

ヒカルはそう思うと、もう一度

「塔矢…好き」

アキラにキスをした。

 

雨はいつの間にかやんでいた。
その事に気づかないまま、二人の部屋では「僕のほうが好きだ!」「オレのほうが」という声が続いていた。

やまない雨はない。
ヒカルはみつけた。
塔矢アキラという光を…。

いつか伝える…全ての謎も…きっとアキラなら受け止めてくれる。

そう今なら信じられる。
ヒカルはまだ、自分が…と言い続けるアキラの口を、先ほどよりも熱をこめてふさいだ。

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終わったです。
一年ぶりに更新しました。
なのに、なんか読みづらいわ…くらいような…。もっとさらっとしたものを書く気だったのに…。とほほ。

自分の道を信じて疑わないアキラさんと、迷いながら傷つきながら強くなっていくヒカル。そんな二人がすきなもので…。

 

 

 

END