★愛すべき毎日・ヒカル遍★

パチリ…
パチリ…

心地よい風の中、静寂を破るように…しかし、静かな音が聞こえる。

「ん…んん…」

進藤ヒカルは今夢の中だった。
懐かしい匂いがする…。なんだろう…。
そして、音。

(…ああ、佐為だ…。佐為が居ないなんて…やっぱり…今までのって夢だったんだ…よかった)

安堵して、涙がうっすら浮かびそうになって、自分の目の前がやたら明るいのに気づいた。

(…あ、っていうか、今が夢か…。夢か現実か分っちまうのも…)

なんだか、悲しい…と思いながら、夢の中でヒカルは、少しがっかりしながら目を上げる。
その先には、光にあふれた人物が、まるで自分を誘うように…その先に続けば「神の一手」が
つかめる様な気がする…そんな気にさせるように、パチリ…パチリ…と淀みない一手を作り上げていく。

(ああ…、夢でもいいや。なんか、あったけぇ…こういうのって、幸せかも…)

うつらうつら…夢と現実の狭間を漂っていたヒカルは、目を閉じた目の前に広がる光の中で静かに碁を打ち続ける人を、うっとりとみつめていた。
知らず(寝てるのだから当然だが…)微笑がこぼれる…。

「…ふはは…」


暖かい日差しに抱かれて…静かに打たれる碁石の音に包まれて、幸せいっぱいになったヒカルは光溢れる夢の中で笑った。
その笑い声にはじかれるように、碁石が打たれる音がやむ…。

(ちぇ…なんだ…。やめないでくれれば、いいのに…。)

なんとなく、幸せな甘い時間が終わってしまったようで、凄く悲しい…。
まるで、急に一人になってしまったみたいな…寂しい気持ちに襲われる。 一瞬のうちに、孤独がヒカルを襲う。
今まで光溢れていた世界が、急に暗闇になってしまったような…。
暖かかった時が、凍りついたような…。

(いやだ…一人は寂しい…。置いてかないで…戻ってきて…。)

そう思った習慣、思いっきり肩を揺すられる衝撃を受けた。

(えっ…、何!?何??)

「進藤!進藤!!何時まで寝てる気だ!君は僕と打つのだろう!?打つ気が無いなら、ここから追い出すぞ?」

「…と…塔矢…?」

まだ、完璧にさめていない頭を振りながら、今自分を起こした目の前の人物をみると…眉間に皺がよっている…。

(お…怒ってる…?)

孤独な暗闇から、日差しいっぱいの縁側に戻ってきたヒカルはホッとしたのも束の間、
再度背中が薄ら寒くなってきた。
でも、今味わった孤独を考えると、勝手なことに「もっと優しくしてくれてもいいのに〜」とか思う。しかし、回復してきた頭の片隅に「自分がアキラと碁を打つためにアキラの家に来ている」という事を思い出して、ちょっと自分が分が悪いかな〜とか思ったので、そのせいでアキラが怒っているんだろうと、(一応謝っとくか。)などと軽く思った。

「…わ、悪かったよ〜勝手に寝ちゃって。でも、お前、起こすなら、もっと起こし方があるだろ〜?」

謝ってるくせに、なぜか唇が尖っている。頬もぷくっと膨れている。
つまりは、膨れながら謝りつつも、いいたい事はとりあえず言っとく。
それが、進藤ヒカルだ。

そんな、悪いと思っているのか思っていないのか、微塵も分らない態度に、眉間に再度皺をよせ、

「…君は〜。」

と、体を打ち震わせ、激震までの体力を溜め込んでいる。
それが、塔矢アキラだ。

「ふざけるな〜」

主の居ない塔矢家に、今日も威勢の良い声がこだまする。


結局、ヒカルは孤独だった気持ちは忘れてしまった。

こっぴどく怒られながら、冷めたお茶とお茶うけを貰えたヒカルは、部屋の中央にある碁盤をみて
作り上げられている美しい星をみて思う。

(夢の中の…佐為だと思った人は、こいつだったんだ。)

アキラが打った流星群は、アキラとヒカルが2年と4ヶ月ぶりに打った本当の意味での二人の初対局の時のものだった。
なんとなく、じんわりと胸が暖かくなって知らずに微笑んでしまう。

(そうだな…こいつと打ち続けてれば、いつか…いつか、あの光の世界に…神の一手にいけるよな!)

そして、満足げにお茶を飲み干す。

「打とう、塔矢!いっぱい、これからももっともっと打とう!!ずっとずっと打とう!」


そして、また二人は碁を打つために再び基盤に向かう。

「お願いします」
「お願いします」


庭にあふれていた光は、いつのまにか赤く染まっている。
穏やかな日差しの中で、二人の打つ碁石の音が静かに続く…まるで、永遠のように。

 

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