★○ードキャプター ○くら 的ヒカルの碁2(前編)★

大好きな黒髪の恋人が、自分の目と鼻の先にいて…その顔が降りてくる…。
甘くて柔らかい感触を唇に感じて、思わずため息がでる。
そして、もっと暖かくてふんわりしたものが自分の唇をつたう。

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ボーっとした様子で、ヒカルは今朝見た夢を思い出した。
みるみる、赤くなる顔に佐為が不思議そうな顔をする。

「ヒカル、今日はどんな夢をみたんですか?また、予知夢でしょうか〜?」
「……どうだろう…。過去夢かもしれない…し、予知夢かもしれないし…。」
「なんですか?なにか思い当たることでもあるんですか?隠さないで教えてくださいよ〜。」

佐為がふよふよと、ヒカルの目の前を飛び続ける。

「あ〜、もう!なんでもないんだってば!!」

(こんなこと言えるかよ!アキラとキスした夢みたなんて…。)

そう、ヒカルはアキラの夢をみたのだ。
これは、先日初めてのキスをしたときの過去夢かもしれないし…この先すると約束した大人のキスの夢かもしれない…。
どちらにしても、佐為にはいえないことであった…。
アレ以来、アキラとヒカルは仲直りをした。
といっても、別に喧嘩をしていたわけではないのだが、二人っきりで会うことをヒカルが避けなくなったのだ。
相変わらず、アキラが目の前にいるとドキドキするけれど、優しく見つめられたり自分より広い胸に抱きしめられると、優しい気持ちになれ…うっとり細められた瞳が自分の目の前にひろがり、唇に触れるようなキスをすると、幸せで胸がいっぱいになることをヒカルは知った。

アキラはヒカルと二人っきりのときは、かならず抱きしめてキスをしてくれる。
でも、あの時に唇をなめられたようなキスになりそうになるとヒカルが逃げ腰になるので、まだ大人のキスには至らない二人であった。


「ほらほら、今日は土曜日だから。オレ食事当番だし、佐為食べたいものあるか?」
「え〜っと、それでは、あの前に作ってくれた甘い蜜をかけるふんわりとした丸いものがいいです〜。」
「ああ、ホットケーキの事ね。オッケー!ちょっと待っててな!!」

ヒカルは、軽快にベットから飛び出ると朝食の支度をするべく台所に走るのであった。

ジューッと油をひいて、溶いたホットケーキの粉を流し込んでいると兄・和谷が降りてくる。

「おッ、今日は怪獣が作ったもんか!腹壊さないように気をつけなきゃな!!」
「和谷!そんな事いうなら食わなくってもいいんだから!!」

朝から憎まれ口をたたいてくる和谷に、お返しのアッカンベーをくらわせて、ヒカルはいつもどおりの朝を迎える。

「ヒカル。今日は、どっか行くのか?」
「あ、うん。アキラと約束してるんだ。今日は碁会所に行ってくるよ」
「ふ〜ん。あのクソガキとな。」
「クソガキって…。なんで、和谷はアキラが嫌いなのかな〜?」

なぜだか分からないけれど、異様に仲の悪い二人。
ヒカルにとっては、口は悪いが実は優しい和谷と大好きなアキラ。
どちらとも、大事な人だから…仲良くして欲しいと思う。

一方和谷は和谷で

(お前をとってく存在だからだよ!!)

胸のうちでは、母亡きあと大事に育ててきた娘のような弟を取られてしまう、切ない兄心でいっぱいなのだ。
だが、そんな事は露ほどもみせずに

「理屈じゃないんだよ!」

と、顔をしかめて和谷はヒカルの作ったホットケーキをほおばるのであった。


どうしても行きたい〜と粘る佐為をカバンの中に潜ませて、アキラとの待ち合わせに急ぐ。
佐為は人形に見えなくもないが、しゃべるし、何よりも好きな碁を打たせろと駄々もこねる。
ので、人の中に…それも碁会所につれてくのには多少の迷いがあったのだが、今朝見たアキラとのキスが頭をよぎり…あの日にした大人のキスというやつへの抵抗が、佐為を連れてかせる事となった。

約束の場所には、アキラが来ていて周りの幼い女の子から大人の女性・老女まで幅広い層の女性の目を惹きつけていた。
背筋正しく、遠くを見やるように立つアキラは、モデルのようにかっこよくって、おかっぱ頭という珍しい髪が似合うこともあわせて、何かの撮影のようである。

「アキラ!遅れてごめん!!」

息を切らせて、ヒカルが飛び込んでくると極上の笑みをくれる。

「いや…、君は遅れてないよ。僕が早く来ただけ」
「そうなんだ?でも、待っただろ?ごめんな。」

ニカッと笑うヒカルは、太陽の光に照らされた金髪の前髪がキラキラと輝き、普段大きな目が優しく細められて…まるで天使のように可愛い…とアキラは密かに思った。

走ってきたヒカルの髪を優しく直すとそのまま、肩を誘導するようにそっと押す。

「じゃ、行こうか?」

まるでラブラブカップルのような(実際そうだが…)ムードを大放出していた二人。
かたやモデルのようなかっこいい美少年。
かたやアイドルのような可愛らしい美少年。
待ち合わせ中のアキラを盗み見ていた女性達の殆どが、その光景をうっとりと見つめていた。


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「今日は、佐為も一緒なんだ!!」
「えっ!そうなの?」

ヒカルにそう告げられて、アキラは内心狼狽していた。

(今日こそは、ヒカルと大人のキスをしようと思っていたのに…)

余計な邪魔が入ってしまったと、心の中で舌打ちをする。

「碁会所に行くって言ったら、どうしても行きたいって言うから」

ゴメンな?と首をかしげて自分を見上げるヒカルがまた可愛くって、なにも言えないアキラなのであった。

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いつもは二人でアキラの家かヒカルの家で碁を打つ。
それに佐為が混じって…三人で打つことが多いのだが…、佐為と一緒の時ヒカルはアキラのスキンシップを嫌がるのが、アキラの悩みであった。
いつも一緒にいる佐為にアキラとするキスをみられるのは、恥ずかしい…ということらしい。
なので、本当に二人っきりになるとき以外、アキラはヒカルにキスをすることも…手をつなぐことすらできないのであった。
そうすると、学校の中で上手くヒカルと二人っきりになるか…学校の帰りにヒカルを家に誘うか…。
どちらにしても、チャンスは多いものではなかった。

(二人っきりになる時間が少なすぎる…!)

まるっきり二人になることを避けられていた少し前と違って、やむ終えなくそうなってしまうのだが…。
だから、休日の今日のデートは、佐為を連れ出すにははばかられる様な場所・碁会所にしたのだ。

アキラとて、碁の強い佐為と打つのは楽しいし、実際勝負が始まれば真剣そのものだ。

だが、今はともかくヒカルをしっかり捕まえたい。
もっと、彼を独り占めしたい…。

触れるようなキスも、優しく抱きしめたときの華奢な身体も…そして初めてのキスの日に、彼の唇を舐めた感触も。
それらを思い出すたびに、アキラはもっともっと深く愛しい恋人に触れたくて仕方なくなるのであった。


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アキラとヒカルが、初めて入るその碁会所では、大人達が白熱(?)した戦いを繰り広げていた。

「すみません、学生2二人」

なかなかに混み合っている碁会所、受付には人が出払ってしまっていたためアキラが奥へと声をかける。

「はいよ、学生二人ね」

奥から、声をかけながら男性が出てきてアキラを睨みつける。

「わや〜!なんで、こんなトコにいるの?」
「悪かったな。バイトに決まってるだろ!?」
「…ホントに、いろんなトコでバイトしてるんだね。」
「今日は、ここでいつもバイトしてるヤツが急用で、変わってやったんだよ。」
「ふ〜ん。」

兄弟のやり取りが続くのを愕然とし、

(……またお邪魔虫が…。)

笑顔を貼り付けたまま、奥歯をかみ締めるアキラであった。

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二人は、佐為も交えて碁を打っていた。
初め、二人だけで打っていたが、その内二人の熟練された手を見ていた周りの大人たちが、二人に対戦を挑むようになったのだ。
熱気あふれる空気に当然リュックに潜んでいた佐為も黙っていない。
あまりに、アピールするので、ヒカルが仕方なくリュックから顔を出させ、耳打ちさせる作戦で佐為にもうたせてやったのだ。
佐為が人形でないことがばれるのでは!?とハラハラしたが、佐為のことを人形だと思い込んでいる大人たちには、人形好きな可愛い少年…としか見られず、なんとか碁を打つことができたのだ。

何度かの対戦のあと、検討をしていると行き成りヒカルの頭上に布が降ってきた。

「わっ!何??」

びっくりしたヒカルが、視界を奪う邪魔な布を払うと、和谷が立っていた。

「ヒカル、そろそろ帰るぞ!」
「和谷〜!びっくりさせるなよ!!バイトはいいのかよ?」
「今日はもう、これで終わりだ。」
「ふ〜ん、お疲れ様!」

和やかな兄弟のやり取りに、内心穏やかでない人物が一人…。
もちろん、黒髪おかっぱの貴公子である。
愛しい恋人の兄が自分達の仲を邪魔しているのは、気付いている。
ソレは、別に二人が男同士だからという狭い考えではないのは分かっている。(実際、彼自身の恋人も男だ。というか、人外である和泉だ。)
では、自分が気に食わないのか?
それもあるだろうが、やはり可愛い弟を取られてしまう寂しさ…が大きいのだろうと思う。
初めは、あからさまに自分を邪魔扱いする和谷に腹も立っていたが、そのたびに見せるヒカルの困ったような顔に、彼を悲しませてはいけない…と思うようになったのだ。

「でも、今日はアキラと最近出来たラーメン屋さんに寄る予定だったから先に帰ってよ!」
「なんだ、ヒカル。今日はお前の好きな中華をつくってやるぞ!俺が料理当番だからな。」

和谷が、アキラを睨むようにヒカルに告げる。
ここで、兄の誘いを断ればアキラの印象が益々悪くなるのでは?とも思うし、前から約束していたアキラを優先したいとも思う。
意地悪はしても、無理など言ったことのない兄であるが、ことアキラのことになると人が変わったようになるのだ。
ヒカルが、上目遣いに和谷を見上げ迷っていると、

『カタリ』

音がして、アキラが席をたつ。

「アキラ?」
「ヒカル、帰ろうか?ラーメン屋は逃げないし、お兄さんが早くバイトが終わる日は少ないだろう?僕ならいいから、今日はこれでおしまいにしよう。」

何事もなかったように、いつもどおり笑うアキラにヒカルは胸が締め付けられる。

(アキラは、オレとの約束なんていいのかな?オレと一緒にいたくないのかな?)


結局二人は碁会所の前で別れ、ヒカルは和谷と帰宅の道についていた。
先ほどから俯き加減にあるき、元気のない弟。

感のいい和谷には分かりたくなくても分かってしまう。
アキラのことを考えているということを…。
そして、先ほどのヒカルを思いやって、身を引いたアキラの気持ちも分かっていた。

(がきの癖に…子憎たらしいことするぜ)

「ヒカル、今日は和泉さんもくるから、アイツ呼んで来いよ。まだ、そんなには行ってないだろ?
一人分増えるのも変わらないし、家で食べてけばいいじゃん。」

その言葉に、顔をあげたヒカルの顔といったら。
喜びに目は輝き、口元には愛らしい微笑を浮かべて…。

(そんな顔見たら、アイツに意地悪できなくなるな…)

苦笑いを心の中で浮かべる和谷。

「ありがとう、和谷〜!」

一気に元気になったヒカルは、来た道を急いでもどる。

「ヒカル、オレは先に家に帰ってるからアイツと一緒に早く帰って来いよ!」
「うん!」

大きく手をふりながら、走りさる弟をみて、そろそろ弟離れをしなくてはいけないなぁと、かみ締める和谷であった。



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