塔矢アキラは、放課後の廊下を急いで歩いていた。
彼の目的の進藤ヒカルは、大変人気がある。
本人に自覚が無いことが、余計にアキラの足を急がせる。

(折角、同じ町に住めるようになったのに、違うクラスだなんて!!)
アキラは葉瀬町の人口の多さを呪いながら尚も歩みを速める。

2年ぶりにあった、愛しい人は背も伸び、丸みが少しとれ美しく成長していた。
やんちゃで可愛かった彼だが、今は二年の遠距離恋愛の末か憂いをもちいた表情をする…しかし笑顔の可愛らしさは変わらない…相変わらず人の目を惹かずにおれない少年だった。
アキラは、彼を置いて中国に帰っていたことを悔しく思う。
いつも、一緒にいたかった。
でも、ずっとこの先もずっと、一緒に居る為には必要な時間だったのだ。
自分は、塔矢家の跡取りであったのだから…。
父と母には、自分の気持ちを一から説明をした。

初めのうちは、アキラの幼さが思い込ませた恋だと一蹴された。

でも、なんどもアキラの気持ちを語るうちに…両親は分かってくれた。
今まで、家のことだけを考え、その為だけに生きてきたアキラを両親も悲しく思っていたからだ…。
日本から帰ってきたアキラは、今までとは全く違う…前向きな力が…そして人を思う強い心がある。
最終的に両親は、生まれ変わったアキラを見て、その真剣な気持ちを認めることとなった。

塔矢家の最も優秀な息子の血筋を後世につなげることはかなわない。

でも、それにも引けを取らない偉業をこの息子はやり遂げてくれるだろう…。
そんな、希望を感じて。

そして、アキラは塔矢家から勘当された。
それは、すべてのカードをそろえたという進藤ヒカルを認め、息子を信じた故に出した両親の優しいはなむけだった。

勘当はされたが、基本的に親とはやり取りをしているし(実際、日本に永住するための手続きは親の了解がなくては進められない)金銭的にもアキラが今まで、塔矢家に尽くしてきたに値する報酬は一生遊んでいても困らないようなものであった。
(それにしても…、たった2年離れていただけなのに彼の周りには邪魔な人間が多すぎる。)

相変わらず、スヨンやヨンハとも連絡をとっているらしいヒカル。
二人が、自分達の恋に障害にはならないとは分かっていても過去の苦い思い出から、アキラは二人を警戒していた。
葉瀬小から一緒だった人間なら分かるが、中学からヒカルと仲良くなったという同じ囲碁部の三谷や筒井、それにやたらとヒカルをかまう加賀などはめざわりで仕方ない。
それに、新人担任の門脇はヒカルにやたら甘い。
(人のものを勝手に甘やかすな!)

昔はあこがれていた和泉でさえも、今のアキラにとっては嫉妬の原因以外にほかならないし、クロウリードが作り出した太陽の属性をもつ佐為も、彼の傍にずっといる目障りな存在だった。
アキラが許せる人間といえば、自分とヒカルとの仲を応援してくれた藤崎あかりだけだった。

どうして僕は、こんなにヒカルと離れていて平気だったんだろう。
会えない間は、会えるように努力することで精一杯だった。
彼と話す電話や、彼とやりとりするメール…、そこから愛情を見出して自分を満たしていた。

そんなもので満たされていたなんて、信じられないよ…。
いや、会わなかったからこそ…お互いの環境がクリアになっていなかったからこそ、二人だけの世界で二人だけの気持ちを見せ合うことができた。
でも、再開し一緒に過ごすようになってから他人が目に入り、アキラを独占欲の鬼へとさせる。

やっとたどり着いたヒカルの教室では、珍しくヒカルが一人で帰りの用意をしていた。
カバンを背負ったヒカルの腕を取ると、

「アキラ」

と、驚いた顔をしながらも微笑んでくれる。

豆鉄砲をくらったような顔も可愛いが、その後の自分だけの笑顔がうれしくってアキラは今までのイラつきをわすれる。

「ヒカル、今日は一緒に帰らないか?」
「アキラ!今日はあかりんちに行くんだ。アキラも一緒にいこ?」

(君はせっかく、やっとのことで会えたのに二人きりで会いたくないのか?)

一度は収まったイラつきが、再度アキラを襲う。
しかし、愛しい彼が自分に向ける満面の笑みは、天使のように可愛らしく…結局アキラは、その笑顔に逆らえることなど出来ず…あえなかった日々の免疫の無さも含めて、アキラは赤面しながら、

「ああ…そうだね…」

むなしくそう答えるよりほかになかったのだった。

ヒカルに触れたのは、自分が帰国してすぐに会いに行った朝だけだった。

喜びのあまり、咄嗟に抱きついてきた彼と彼を抱きしめた自分…。

まるで夢のようだった。
散々、想い描いた愛しい人は思っていたより華奢で…強く抱きしめてしまったら折れてしまうのでは…?と思うほどで、自分より少し背の低い彼の柔らかい金髪の前髪が、自分の頬に触れ…彼が離れたときに感じた残り香は、花のような香りがして…。どれをとっても、アキラを夢中にさせたのに…。

(アレ以来、一度も彼に触れていない…。それどころか、満足に二人っきりで話もしていない…)

再開を果たしたアキラの、目下の悩みであった…。

アキラが悶々としている中、そんな事などお構いなしに、ヒカルはあかりの教室へ向かう。
二人で、あかりを迎え、三人そろって、あかりの家へ向かう中、ヒカルはとても楽しかった。
大好きなアキラと一番の親友のあかりが一緒で…。
家で寝ている佐為もいれば、あの頃みたいだ!

ヒカルは、にこにこしながら2年前までのクロウカード探しを思い出していた。
カードは今、みんなヒカルにとっても大事な友達だ。
特に、黒い真っ直ぐの髪をもつ美しい闇のカードをみるとアキラを思い出すようで…一人こっそり眺めて顔を赤らめていたこともある…。

そう、ヒカルだってアキラが大好きなのだ。

でも、2年ぶりに会ったアキラは、背も伸び何だかたくましくなったみたいで…気恥ずかしくって二人っきりで話をしようとすると、心臓が飛び出そうなほどバクバクするのだった。
再開を果たした朝に、咄嗟に抱きついてしまったことさえも恥ずかしさのあまり火が出るようで…出来れば忘れてしまいたいし、アキラにも忘れて欲しいと思っていた。

アキラと違って、恋に気付いた瞬間に遠距離を余儀なくされたヒカルには、アキラと『恋人』という現実をかみ締め切れてなかった。

あかりと和やかに話すアキラを、盗み見るとあの頃の真っ直ぐで美しい瞳はそのままで、風になびく肩までのストレートの髪は、触ったらさらさらしてそうで、どんな時でも品があるアキラは昔と変わらず王子様のようだと、葉瀬中の全女生徒が思っているとの噂だ。

突然のように、遅れてきた転校生はクラスだけでなく学校全体で目立っていた。

その、美貌といえる容姿にもかかわらず、女っぽさなどかけらも無い体格と風貌。
それに加えて、頭脳明晰でかつ運動神経もよい。
また、中国から一人で来て一人で暮らしているという、謎さえもアキラの魅力の一つになっている。

そんなアキラは、常に人の注目を浴びており、アキラの周りには彼に話しかけたくってたまらなそうな女の子達で溢れかえっている。
当然アキラは、そんな女子には見向きもせずヒカル一直線なのだが…ヒカルとしては、なぜだか居心地が悪くて仕方なかった。
こんな風に真っ直ぐ向き合ってくるアキラに、心臓バクバクなヒカルは向き合うことが出来ない。

アキラが自分のためだけに、日本に永住を決めてくれたことを知っている。

自分だって、アキラのことが好きなのに…。
傍にいるのが、ソワソワして仕方ないのだ。

実際は、アキラがヒカルのところに行ってしまうと、アキラのファンはがっかりはするのだが…アキラと並ぶ可憐ともいえるヒカルと王子様なアキラが並ぶ姿は、それだけで美しく目の保養と…違った意味で喜ばれている。

そんなことを、露ほどもしらないヒカルは、只今自己嫌悪とバクバクのためアキラと二人っきりになるのを避けているのであった。

(だって、こんなの和泉さんのことを好きだった時とも全然ちがう…)

何にだって真っ直ぐなヒカルだったが、離れていた「一番大好き」との突然の再開に戸惑っている恋の初心者に違いなかった。

三人でお茶をのみ、昔話や離れていた間の話などをしているとあかりの母が帰ってき、ヒカル大好き!!なあかりの母は、ヒカルを無理やり写真撮影に連れて行ってしまった為、アキラとあかりが二人っきりになってしまう。
一瞬の沈黙のあと、二人の目があう。

「塔矢君は、ヒカルとは上手くいっているの?」

気まずさに、お茶に手を伸ばしたアキラは思わず胸に詰まらせてしまい、咳き込む。

「その調子だと…、あまり上手くいっていないみたいね…?ヒカルはボンヤリしているから、好きな人がいても、どうしていいのか分からないんじゃないかしら?」
「藤崎さん…。」
「ヒカル…本当に塔矢君と再会できるのを楽しみにしてたんだから!でも、実際に会えて…どう接していいのか分からないんだと思うの」
「…相変わらず、彼のこと良く見てるんですね。」
「だって、ヒカルのことだもん。」
「…僕は…僕は彼が愛しくて仕方ないです。いつだって二人っきりでいたい…。でも、彼は違うのかも…。」
「私と一緒にいたがったり、自分からは塔矢君に会いに行かないから?」
「……。」
「でも、行動に起す態度だけでは気持ちは量れないんじゃないかしら?」
「…。僕は…彼と離れて暮らしていた時の方が気持ちが通じ合っていたような気がしてしまう…」

自嘲するように、呟き俯くアキラに、あかりが優しい目を向けて見つめている。
その目に気付いて、アキラは自分の気弱な姿に照れたような笑いをあかりに向ける。

その姿は、お似合いのカップルのように和やかで…。

『ガタン』

扉が開いた音がして、二人がそちらを見ると、あかりの母からようやく解放されたヒカルが大きい目を更に大きくして、たたずんでいる。

「ヒカル…」
「どうしたの?ヒカル??」

「……」

ヒカルが何も言わず、驚いたようにたたずんでいると、二人が心配げに声をかける。
ヒカルは、一斉に向いた二人の顔からそらすように顔をそらすと、

「オレ…今日食事当番だったんだ…。ごめん、先帰る…。」
と、いうと急に走り出してしまった。

ヒカルは、あかりの家から走って家路に急いでいる中、自分でも分からない程の不安と嫌な気持ちでいっぱいだった。胸が痛い…。

自分でも何でこんな事をしてしまうのか分からなかった。
ただ、あの場に居たくなかったのだ。
笑いあう二人を見たくない…。
ヒカルは、自室にもどりベットにダイブする。
扉の開いた音で、昼寝をしていた佐為が起きてきてヒカルにまとわりつく。

「ヒカル〜どうしたんですか?あ〜!塔矢とあかりちゃんちに行ってきましたね!ずるいです〜!!また二人で打ったんでしょう?私も誘ってくれなきゃ駄目ですよ!?」
ふよふよと、ヒカルの周りを飛び回り、ヒカルにせがむ佐為の目に届かないように布団をかぶりこんでしまうヒカルに、流石の佐為もどうしたものかと、あせりだす。

「ヒカル!?どうかしたのですか??元気が無いようですが…。」
「なんでもねぇ〜よ!ちょっと、眠いだけ!!」
「でも…」

そのまま、無視を決め込んでしまったヒカルに、何もいうこともできず…佐為はふよふよとヒカルを心配げに見守るだけであった。

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