ヒカルが悶々と、ベットの中で胸の苦しさに耐えていると、家のチャイムがなる。 今日は、兄の和谷はバイトで父も大学の用事で遅くなると行っていた。 仕方なくノロノロと、玄関に行き表を確かめると、そこにはあかりがいた。 驚いて、勢いよく扉をあける。 「ヒカル…。カバンを忘れたから届けに来たの。」 「あかり…。サンキュ」 あかりから目をそらすように、差し出されたリュックを受け取ると、気まずそうに黙り込むヒカル。 「ヒカル…ちょっといいかな?」 何かを、自分に話そうとしているあかりに、玄関先ではなんだからと、自室移動する。 「あ〜あかりちゃん。こんにちは〜。ひかるが何だか、おかしいんですよ?」 扉をあけると、待ってましたとばかりに、佐為があかりに話しかける。 「佐為やめろよ!」 「だって〜本当のことじゃないですか?」 否定するヒカルに、不満げに食い下がる佐為。 その様子を、にこやかにみていたあかりだったが、ヒカルに向かい合い、ハッとするほど真剣な顔で見つめてくる。 「あかり…」 「ヒカル。今のままでいいの?今のまま、塔矢君から逃げてるの?」 「…逃げてなんか…。」 「言い切れる?ヒカル…いつものヒカルはどうしたの?絶対大丈夫の合言葉はどうしたの?」 「…。オレ…。」 「塔矢君が不安じゃないとでも思ってるの?怖くないとでも思ってるの?」 「…。」 「大好きな人に、気持ちを受け止めてもらえなかったらどうしようかって不安になっても怖くなっても、塔矢君はそれ以上にヒカルともっと近づきたいから…努力してくれてるんでしょ?」 「…オレ。自分が分からない。アキラとあかりと…三人で一緒にいると楽しかったんだ。二年前みたいで…変わらないみたいで…。でも、アキラとあかりが二人でいるの見て…胸が痛くなった。」 途切れ途切れに、自分の気持ちを苦しげに話すヒカルにあかりは優しく手を伸ばし頭をなぜる。 「それは…、もう二年前と私達が一緒じゃないからだよ。塔矢君の一番はヒカルだって事をヒカルが知ってて、ヒカルの一番が塔矢君だってヒカルが知ったからだよ。」 「あかり…」 はじかれるように、あかりをみると…あかりは二年前と寸分変わらない笑顔で自分を見つめてくれる。 「私は変わらない。ヒカルが大好きだから!ヒカルがヒカルの一番と幸せになってくれるといいって願ってるから…ずっと。」 「あかり…。」 「だから、ヒカルは変わっていいんだよ。」 「え…。」 「私が、ちゃんと見てるから。形は変わっても、私はヒカルの親友だってことには変わりないし!!」 恐がらないで!!と、力づけるように微笑むあかりに、ヒカルはアキラに伝えられなかった気持ちを伝えようと決意した。 ------------ 「ヒカル!!」突然、ヒカルが扉を飛び出していってしまうと、後を追おうとするアキラに声がかかる。 「塔矢君!今は、少し待って!!」 「藤崎さん!なんで、こんな時に落ち着いてるんですか?ヒカルは何だか変だった。今すぐ追いかけなくては!!」 「今の状態のままでもいいの?塔矢君が、そうやって何もかも答えをあげてしまったらヒカルは塔矢君へどうするべきか気付けないままなんじゃないかしら?」 「…藤崎さん…」 アキラは自宅のマンションで、先ほどのやり取りを思い出して眉間にしわを寄せていた。 あかりは、ヒカル自身が気付くまで動いてはいけないと言った。 恋に駆け引きはつき物だ。 自分だってわかっている。 でも…。 彼がいつまでも気付かなかったら? このまま、ヒカルを失ってしまうような気がして、じっと座っていることさえできない。 2年前に、お互いに交換した碁石を手に、唇をかみ締め…ただ耐えるけれど…。 扉を飛び出す前のヒカルを思い出す。 大きい目が更に大きく開かれ、自分の為に泣きそうにゆがむ顔…。 もしかして、嫉妬してくれたのかもしれない…。 その期待にかける喜びと…、彼を傷つけたかもしれないという胸の痛み。 自分は、彼を傷つけたいわけではない。 甘やかしあう、馴れ合う関係になりたいわけでもない。 ただ、優しく…彼を知り彼に触れ彼を自分のものに…自分を彼のものにしたいだけなのに…。 思いつめた顔を、空に向けていたアキラだったが、突然立ち上がる。 自分には恋の駆け引きなんて出来ない。 彼を追い求め…傍にいることが、自分の幸せなんだから。 あかりには、今日は家にいろと言われたが、ヒカルの家に行って話し合おう…そう思い、上着に手をかける。 『ピンポーン』 (急いでるのに…!いったい誰だ!?) やっと決意した気持ちを、いきなりくじかれたような気がして、いらだちながらインターフォンをみる。 (え…?) アキラのマンションのインターフォンは、来客者の様子が映像で見れるようになっているTVカメラつきのインターフォンである。 その、小さな画面の中に見慣れた少年がソワソワした様子で、インターフォン側を伺っている。 その様子は、子犬が母犬からはぐれてしまったように不安げで…アキラはすぐにでも、彼の傍に行って抱きしめたくなってしまう。 「アキラ!?いないの??」 再度インターフォンがならされ、愛しい人の突然の来訪に呆然としていたアキラは、すぐさまインターフォンをとる。 「ヒカル!!どうしたの?今開けるから!!」 ------------ 「ヒカル!?」オートロックを解除して、エレベーターをあがってきたヒカルをソワソワした気持ちで迎え扉を開けると、そこには先ほどから…いや、もう何年も自分の心を占めてきた彼が、自分の胸に飛び込んできた。 「アキラ…。アキラ…。」 「ヒカル…どうしたの?落ち着いて?」 「オレ…オレ…アキラが…好きなのに…」 「うん…?」 「一緒に居ると、ドキドキして…どうしたらいいか分からなくて…」 「うん…」 「でも、アキラがあかりと二人でいるのが似合ってて…」 「うん…」 「見てたくなかったんだ…」 「うん…」 ヒカルは、アキラの家に向かう間、アキラの気持ちをずっと考えていた。 自分に、近づこうといつも努力してくれたアキラ…。 その気持ちを自分は、変化への不安にはぐらかすような行動をしてはいなかったか? 真っ直ぐなアキラに対して、申し訳なくて…自分が不甲斐なくて…。 自分も、もっとアキラに近づきたい。 自分のことを知ってほしい。 アキラのことを知りたい。 きっと、この不安だって二人で分ければ恐くないはずだから…。 と、アキラに素直になることを胸に決めて走ってきたのだ。 息を切らしながら、自分が期待していた言葉をギュウギュウ抱きつき伝えてくるヒカルが愛しくてアキラは、抱きとめていた腕に力をいれる。 「僕も、いつも君の周りにいる人たちにそう思ってたよ。」 お互いの抱きしめあう力が強すぎて、ヒカルが呼吸困難に陥りそうになり一旦名残惜しそうに身体が離れる。 てれた様に、ヒカルが自分を見上げて笑うので、アキラも蕩けそうになる笑顔で彼を見つめ返すと、途端にヒカルは真っ赤になり、横をむく。 「ヒカル?」 「オレ…アキラの顔が真っ直ぐみれないみたい…」 「なぜ?」 「…しらねぇ…」 すねた様に目をむせるヒカルが可愛くて、教えてくれない答えが何となく分かった気がして、もう一度ヒカルを抱きしまる。 抱きしめられたヒカルも、ほっとした様に淡い微笑を浮かべる。 アキラは、この時を永遠にしたい…と思っていた。 もっと、彼に近づきたいな…。 彼が自分のものだという想いを、もっと確かにしたいな…。 「ね、ヒカル?」 「うん?」 アキラに、優しく髪をなでられて更にうっとりしていたヒカルは、ボンヤリと答える。 「キスしようか?」 夢の中にいたヒカルは、ふわふわした気持ちのまま… (キスしたら、もっとアキラと近づけるかな?ドキドキじゃなくて、優しい気持ちになれるかな?) 頭の中が、麻痺してしまったみたいにうっとりと思い顔をあげ、アキラを見上げる。 「うん…」 ヒカルが答えたのが早いか、アキラの顔がヒカルに近づいたのが早いか…。 二人の唇が重なる。 チュッ。 軽く音がなるような、触れるようなキスだったが、ヒカルはアキラの薄くて形のいいアキラの唇が柔らかくて気持ちいいものだと知った。 アキラは、ヒカルのふっくらした可愛い唇が、夢見ていたよりずっとふわふわしていて甘いものだと知った。 幼い二人が、知ってしまった甘いキスは、止められずに触れるようなキスが何度もお互いに繰り返され…口だけでなく、お互いの頬や、目に何度も交互にキスの雨が降る。 最後に、長く唇を合わせあっていると…アキラは、もっと深く恋人に触れたくなって、ヒカルの唇をなめる。 いきなり、ぬれた感覚を唇に感じて、ただ甘くて優しい感覚におぼれていたヒカルは、びっくりする。 「…アキラ…。今の…なに?」 「大人のキスだよ?ただ、触れるだけなんて…物足りなくなっちゃったから…。僕はもっと、ヒカルと深く触れ合いたいな…。」 ヒカルは?と首をかしげて、うれしそうに笑うアキラに…、触れるだけのキスでも、腰を抜かしそうなほど甘美で大前進だったヒカルは答えに詰まってしまう。 「あの…オレ…。オレは…さっきのでいいや…」 だめ?と、自分を見上げるヒカルにクラクラしながらも、キスまで前進したから良しとしなければ…とアキラは自分を戒める。 「駄目じゃないよ。今はね。でも、近いうちにしようね?」 「え…。あ…。」 「僕も初めてだけど…ヒカルのはじめてを独り占めにしたいから…。見たこと無い、ヒカルをもっとみたいから…いいよね?」 この機会を逃すかと、自分に約束を迫るアキラの気迫に押されて、ヒカルは「またの機会に」と約束されてしまうのであった。 ◆とりあえず終わり◆ |