★Angel〜佐為が消えた〜5★

まぶしい朝日の中、アキラはヒカルが休む部屋へと急ぐ。

昨晩、父が話してくれたのは、ヒカルの両親の話…、ヒカルが佐為と住むまで誰とも会った事がなかった理由…。

そして、今、アキラの気持ちは静かに…そして激しい思いが渦巻いていた。

(ヒカル…ヒカル…僕がきっと、君を一人にさせない…)


ヒカルの部屋に来て、小さくノックをする。
それでも返事のないので、今度は大きくノックをする。

(……なき疲れてしまったのだろうか…?)

昨日の彼の様子を思い出して、恐る恐る扉を開ける。
ヒカルは普段から部屋に鍵をしない。
カーテンも閉めたままの薄暗い部屋。

そっと、アキラがベットに近づくと、そこには布団だけが膨らんでいる。

(ヒカル!?)

アキラは、その部屋くまなく探す。
部屋についているシャワー室やトイレ、クローゼットまで…。

(いない…)

どこを探してもみつからない彼…。

「ヒカル!!」

部屋を飛び出し、他の部屋も探す。
アキラの足は、知らず知らず駆け足になっていた。


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「アキラさん…どうなさったの?」

朝のひと時を夫と静かにすごしていた明子は、息子が物凄い形相で駆けてくるのを驚いてみていた。

いまだかって、そんなアキラを見たことなどない。

「ヒカルが…。ヒカルがいないんです!」

青ざめたようにいうアキラに、二人も驚きを隠せない。

「まぁ!」
「探したのか?」

「家中!今、佐為さまのお屋敷に電話をしたら、明け方にヒカルが戻ったそうなんですが…」
「いないのか…?」
「はい。」
「アキラさん…心当たりはないの?」
「…分かりません。でも、僕は佐為さまのお屋敷に行ってきます。もしかしたら手がかりがあるかもしれない。」

「そうね…。アキラさん、ヒカル君を頼んだわよ…」

母の声が背中にかかるのを感じながら、アキラは少しでも早く…と、駆け出していた。

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佐為の邸宅は、もともと静かな位置に建てられた美しい建物だ。
その、厳かな建物が一層静かに見えるのは、その主人を失ったせいだろう。

アキラは、大きな門をくぐり、扉へと急ぐ。

何度も出入りしている邸がいつもと全く違った姿を見せる。
『神の城』へ行ったものの住まいは、そのまま管理される。
だが、一度城へ向かったものが、この天使たちの世界に戻る事は許されない。
あくまで、建物は栄誉ある建築物として管理されるだけだ。
今まで勤めていたものたちは、更に割りのいい勤め先を紹介される。

そのため、藤原邸は人気のないものとなっていた。

「申し訳ありません、塔矢アキラです!」


アキラが、静かなロビーで大きな声で呼びかけると、奥から藤原家に長年勤めていた執事が現れ、アキラに頭を下げる。

「塔矢様…わざわざ申し訳ございません。」
「いえ…、こちらこそ…佐為様にヒカルをまかされていたのに…申し訳ないです。」

アキラが唇をかみ締めると、執事も辛そうに首を振る。
この執事が、自分の孫のようにヒカルを可愛がっていた事をアキラも知っていた…。

「ヒカル様…、一体どこへ…」

呻くように呟く執事の肩に、アキラは手を置き、励ますように肩をたたく。

「今日、ヒカルとは会ったのですか?」
「はい…ひどく青ざめた…泣きはらした様子で…」
「……」
「佐為様のお部屋に一度お入りなって、その後すぐにご自分の部屋にお入りになりました」
「…それで…?」
「私共の勤め人たちに、今後の身の振り方を指示したりしておりまして…落ち着いたところで、ご様子をみに参りましたら
…その時には…もう」

そういうと、彼は激しく頭を抱え込む。

「……、心当たりはありますか?」
「…お恥ずかしながら、佐為様がヒカル様をお連れになってからずっとお世話をしてまいりました。本当に明るくて、ここに勤める使用人全員が好きでした…。でも、だれもヒカル様が、それまで何処にいたか…この建物以外のどこがお好きか…、などといった事を知らないのです…」

悲しそうに俯く執事に、アキラは自分の姿を重ねる。

(ヒカルのことを何も知らないのは…何も分かっていないのは…僕も一緒だ…)

悲しみに胸がつぶれそうになっても、まずはヒカルを探すのが先決で…冷静にならなければ…と自分を戒める。

「ヒカルの部屋から…何かなくなっているものはありますか?」

そうアキラに聞かれて、執事は少し考え…

「そう…、なくなって物…。ああっ!あります!!ヒカル様は殆ど何も持っていかれませんでしたが…、簡易の碁盤と碁石をお持ちになりました!!」

「マグネット盤を…」

それを聞いて、望みを持つアキラ。

(ヒカルは、この世から消えようとしているわけじゃない…。碁と共にあるのならば、きっと生きている!!)

そう確信をして、藤原邸を後にした。


 

 

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