★Angel〜佐為が消えた〜3★ それから半刻してから…右手に熱を感じて、ヒカルは目を開けた。 泣きすぎて、目が重たい。 ノロノロと体を起そうとして、自分の手を握る存在に気付く。 「ヒカル…」 その次の言葉が、出てこないようにただ切なげにヒカルをみるアキラを、光の宿らない瞳で見つめるヒカル。 「沢山寝たから喉が渇いたんじゃないか?君、朝ごはんも食べてないだろ?」 ベットの脇にあるサイドテーブルから水差しをとり、コップに並々と水を注ぐとヒカルに差し出す。
指先から力が抜けていくような恐怖をアキラは感じながら、ヒカルをただ見つめる。 「とりあえず、何か食べるものをもってくるから」 と言い残して、部屋を後にした…。
あまりに打ちひしがれる姿を思い出して、アキラは眉に皺を寄せる。 彼が心配…? (何なんだ…。) 得体も知れない、感情に前方を見据え肩を怒らせて歩く姿は、普段の温厚で礼儀正しいものとはかけ離れていて、すれ違う召使たちを怯えさせた。
(ヒカル…) 「アキラさん…」 いつの間に入ってきたのか、母・明子が自分の横に来ていたことにも気付かず、声をかけられてハッとする。 「お母さん…。何でしょうか?」 「ヒカル君が起きたのなら、知らせてくれなくては…ね」 その言葉で、本来なら伝えなくてはいけなかった人への配慮をスッカリ無くしていた事に気付き、アキラは自分を恥じた。 「すみません…。」 そんな、普段なら仕出かさないような息子の取り乱し方を諌めるように明子はまっすぐな瞳を向ける。 「こんな時だからこそ、貴方がしっかりしなくては。」 きつく問いかける母の真意が見えなくて、アキラは母の顔を見つめ返す。 「僕には…ヒカルにかける言葉がわかりません…」 それが、辛いのだと言わんばかりに唇をかみ締めるアキラに、明子は瞳を和らげる。 「よく考えて…。きっと貴方なら分かるはずよ。」 だって、私の息子ですもの!と、軽く笑うと明子は、出来たばかりのヒカルの朝ごはんを調理長から受け取る。 「お食事は、私がヒカル君にもっていくわ。」 びっくりして、目をあげるアキラに 「お父様が書斎でお待ちよ。それに…」 一区切りして、明子は諭すような目をアキラに向ける。 「貴方には考える時間が必要よ。そばに居るだけでは、大事な人と2度も離ればなれになった彼の心の傍には近寄れなくてよ」
(佐為…佐為…) 優しかった佐為。両親が無くなって、一人で生活する森の中にヒカルを迎えに来てくれた。 自分には何も告げずに去ってしまった佐為に、苛立ちと悲しみと怒りと…がこみ上げてくる。 神の一手に一番近いと言われていた佐為。
(オレの大事な人たちは、みんなオレを追いてっちゃうんだ…) 底なしの孤独に、血がにじみそうなほど唇をかみ締めるヒカル。 「コンコン」 ノックの音に、反射的に扉をみる。
顔を出した明子の姿に、あからさまにがっかりするヒカル。 その様子を、痛ましげに見ながら明子は、 「お腹すいたでしょう?」 「ヒカル君…、あなたそんなに弱かったの?」 はじかれる様に、目を上げるヒカルに明子が真っ直ぐ見つめ返す。 「佐為さまが貴方と離れるのが、悲しくなかったとでも思っているの?」 「…だって…」 その言葉に、初めてヒカルが口を開く。 「黙って行っちゃうなんて…。」 「…ずっと一緒に居てくれるって言ったのに…」 止めどなく流れるヒカルの涙を拭い、明子はヒカルの細い肩をつかむ。 「佐為さまは誰よりも貴方を大事に思っていたのよ。それが分からない貴方じゃないでしょう?」 (佐…為…) 「とりあえず、食べたくなくても無理やりでも食べなさい。考えるのは、その後よ」
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