★Angel〜還る場所〜6★



「寒くない?」

アキラは、自分の顔の下にあるヒカルの頭に話しかける。

「ん、あったけ〜」

ヒカルのくもぐった声が、とても幸せそうでアキラも嬉しくなってくる。

「明日は早いからね。おやすみ」
「ん、おやすみ〜」

言うが早いか、すやすやと寝息を立てるヒカル。

(本当に暖かい…)

いつも、自分の家で一緒に眠ったときとは違う、狭いベットでは彼の体温が感じられて
アキラは幸せに包まれて眠りに落ちた。


深夜、眠りについていたアキラはヒカルの泣き声で目を覚ました。

「佐為…佐為…行かないで…」

ヒカル…。その涙を拭ってやりながら、胸が痛むアキラ。
いつまでも、佐為を追い求めているヒカル。
そんなことは、わかっていた。自分は彼を佐為に会わせるために、今ここにいるのだから…。

頭で思っていても、心臓がつかまれたように痛い…。
今一緒にいるのは、自分なのだ。

(それなのに、キミはそれを忘れて佐為様を思って泣いてるの?)

悔しくて思わず、自分の胸の中にいるヒカルを強く抱きしめる。

「んんっ」

ヒカルが小さく声を漏らす。
その声に、自分がしてしまった事に気付き、ハッと体を起したアキラ。
ヒカルを起してしまったかと目を凝らすが、寝返りを打っただけだったらしいヒカルはスヤスヤと寝息を立てている。

ホッとしたアキラは、ヒカルの顔にかかる髪を払ってやりながら

(僕は、キミを佐為様に会わせると…キミのそばにいると誓ったのだから…)

(僕がそばにいることを忘れないで…)

そう声に出さずにアキラは願った。

「ん〜」

髪を撫でられて気持ちが良くなったのか、ヒカルが温もりを確かめるようにアキラの首に手を回す。

「!ヒッ、ヒカ…!!」

急に近づいてきたヒカルにアキラは思わず、上ずった声をあげる。
目を瞠ってヒカルを見れば、そのまま涙も引いた顔は、とても幸せそうで…。

(彼を起してはいけない)

と、アキラがそっと身体をずらそうとするが、狭いベットでは大して距離をとることも出来ない。
そうこうすると、ヒカルがまた鼻をこすりつけるように近づいてきた。

(まるで、犬か猫みたいだ…)

焦る気持ちで、冷静になろうと状況を観察してみるのだが…ヒカルの顔は、もうアキラの顔のすぐしたあたりに来ている。

(…!このまま、顔を落とせば…)

キスが出来てしまう距離である。
どんなに冷静になろうと思っても、目はヒカルのうっすら開けられた唇にいってしまう。
ふと、彼を菩提樹の樹の下まで迎えに行った日のことが思い出される。
傷だらけになった自分を、治癒する為に彼は傷を舐めてくれた。

柔らかい唇が自分の肌をつたう…。
暖かくて、気持ちが良くて酔ってしまいそうだった。
いや…もう、酔ってしまったのかもしれない…。

(でも、アレはキスではない…。)

ヒカルは自分の気持ちになど、気付いてさえいないのだから…。
そう分かっていても、その日のことを思い出すとアキラの体は熱く火がついたようになってしまう。

(でも…僕は眠っているキミとキスがしたわけじゃないんだ…。)

アキラのプライドが、そんな事は許されないことだと訴える。

(そんなプライドを捨てて、キミに触れてしまったら楽になれるのだろうか…?)

答えは否だ…という事も分かっている。
だから…。
アキラはヒカルから無理やり顔を離すと、冷静になるべく一人頭の中で棋譜並べを始めた。


 

7へ