★Angel〜還る場所〜5★


アキラは熱いお湯につかりながら、ため息をつく。

閉じたまぶたに、浮かんでくるのは先程のヒカルの身体。
出会った頃は、ふっくらしていたヒカル。
佐為が消えてから、少しやせた様だと思っていたが…。


(抱きしめたら壊れてしまいそうだった…)

そう思いながら、あの大きな樹の下で彼を抱きしめた日のことを思い出す。
あの時は夢中で、彼の身体の感覚など感じる暇が無かった。
ただ、逃がしたくない…離したくないと、夢中で手を掴んだ。

そして…

(彼の舌が触れた感覚が…忘れられないなんて…。)

あの日、傷だらけになった自分を治癒してくれたヒカル。
自分の傷に口づけたのは治療の為だと分かっている…それでも。

(あの生暖かい、柔らかい感触が、頭から離れない…)

アキラは、その感触を思い出して、体の奥がうずくのを感じる。

(いけない…。僕はこれから、ヒカルと一緒に生活するんだから。)


ヒカルへの気持ちを隠さなければいけないという事…それがアキラの、もう一つの心配の種であった。
友達だと…ライバルだと思っていた彼を、そんな風に見るようになったのは、彼を失いそうになったあの日からだ。
自分は気付いてしまった。
彼が居ない世界なんて、自分にはありえないという事に。
でも…。

(それでも、忘れたと思っていたのに…)

こんな気持ちは、知られてはいけない…。

幼すぎる彼には理解できるわけが無い…。


アキラは顔に暖かい湯をかけると、自分を戒めた。


アキラが、少しのぼせるほどになって風呂から出るとヒカルの居るべきベットに人影がない。

(?)

不思議に思って自分のベットを見ると…、そこには布団がこんもりなっていた。


「ヒカル!」
「ん〜?なんだよ…折角眠くなってきたのに?」

アキラは、何が起こっているのか分からないが、とりあえずヒカルに声をかける。
と、もぞもぞと眠たそうなヒカルが布団から顔を出した。


「ここは僕のベットだ」
「…知ってる…」
「何故、自分のところで寝ない?」
「〜なんだよ…?いつもお前んちでは一緒に寝てんじゃん…」
「あれは、キミが客室で寝ないし、いつも一緒に打ちつかれてそのまま寝てしまうし、ベットも広いからだ!」

声を荒げたアキラに、ヒカルは寝転がっていたベットから体を起す。
不思議そうにしているヒカルに、咳払いをしてアキラはきっぱり言い渡す。

「ともかく、今日からは自分のベットで寝ること。」
「…なんだよ〜。」

納得がいかない顔で、ヒカルがふくれっ面をする。
が、アキラもそこで折れるわけにはいかない。
触れるだけでも、あの日の感触を思い出すのだ。
今しがた自分を戒めたばかりなのに、一緒に寝るなんて出来るわけがない。

「ベットが二つある以上、キチンと寝てもらうよ」
「…分かったよ。も〜オレ、ほとんど一人で寝たことね〜のに」


絶対に譲らないという顔のアキラに、ヒカルもようやく渋々と自分のベットに移動する。


ふと、アキラに疑問がよぎる。
「キミ…、今までどうやって寝てたの?」

「は?」
「だから、佐為様のところで、どうやって寝てたの?自分の部屋があっただろ?」
「あ〜、あの馬鹿でかい部屋。オレ、あそこ全然つかってなかったもん。」
「…。」
「最初の3日くらいだったかな?あそこで一人で寝てたけど、それからはずっと佐為ん部屋」

「キミは佐為さまと一緒に寝てたのか!?」
「?そうだけど…?」
「!??」
「なに?お前佐為好きだもんな〜。一緒に寝たかった?」
「なっ!そんなわけあるか!!」

(佐為様と寝てたって??この年にもなって?信じられない!!!)

本当に幼すぎる!そう思いながら、ムカムカする気持ちで、整った眉を寄せる。

そんな自分をヒカルは不思議そうにベットに腰掛け見ている。
その、寒そうにちょこんと自分のベットに腰掛けているのを見ていると…先ほどの、自分を見上げた赤い目が思い出された。
更に、佐為とずっと一緒に寝ていたという言葉がアキラの戒めを簡単にも、外させる。

「ヒカル、今日は寒いから一緒に寝よう。」
「えっ!いいのか?」
「…今日だけだよ」
「よっしゃ、じゃ、一緒に寝てやるよ!」

(…一緒に寝てやるのは、僕の方なんだけど…)

ヒカルへの同情と佐為への嫉妬で、つい了解してしまったが…すぐに冷静になって後悔したアキラは、そんな事を思いながら、布団をめくってヒカルを入れてやる。
嬉々としながら自分のベットに入ってくるヒカル。

そんな姿を見ていると、もう何でも…どうでもいいような気がして。

(今日は、ヒカルが寒くならないようにしてあげよう。明日はヒカルにとって大事な日だから…)

そう自分に言い訳をして、アキラもベットに入る。
本来広めの一人用のベットに、細身ながらも男二人は結構狭い。
自然とピッタリとくっつくようになりながら、二人は寄り添った。

 

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