★Angel〜還る場所〜2★


「それにしても、なんか背中がムズムズする〜」

アキラに連れられて、 長い廊下を歩きながら、ヒカルは自分の背中を気にしながら窮屈そうな顔をした。
そんなヒカルをみながら、アキラが笑いを溢す。

「そういえばキミの正装…始めてみたよ」

アキラが改めて、ヒカルのその姿を眺めているとヒカルは顔をしかめて

「だってオレ、今までこんな格好したことネ〜もん」

そう、人里はなれた山の中で育ったヒカルには、こんな格好をする儀式など無縁の生活だった。
何もかもが自由で縛られない…。

「だからさ〜、なんか苦手!何も、こんなカッチリしたの着なくたっていいじゃん!」

ヒカルは、まだしかめっ面のまま、納得できないという様に言う。
ヒカルの言い分は分かる…。
ヒカルの育った環境を知れば尚のこと。…だが…

「天使にとって、羽のある背中を出さないという事は、敬意の表れだからね。これから ここでやっていく なら、慣れないといけないよ。」

アキラは、少し立ち止まって、あえて厳しく諭す。
これから、ヒカルが進む道は決して容易いものではない。
そして、神の城を目指すという事は、彼の出生の秘密へと近づく事になるのだ…。
それが彼にとって良い事であるのか…、それさえも分からないのに。

アキラの(碁を交わす時以外に)初めて見せた、真剣な眼差しにヒカルも息を呑む。

そんなヒカルに、更にアキラは、言い聞かすように

「ヒカル…力を競うだけが、僕らの仕事じゃない。尊敬されるに値するマナーや知識も身につける事も求められるんだ」
「うん…」

重みのある言葉…佐為に近づく為に必要な事は、力だけではない…。
十何年もの間、両親以外の天使と関わった事のないヒカルにとって、大きなプレッシャーが懸かる。

俯くヒカルに、行き成り驚かせすぎたと…アキラは心配になって彼の顔を覗き込む。

「ヒカル…大丈夫?」

「えっ」

行き成り、間近にアキラの顔が来たので、驚いたヒカルが顔をあげると、アキラの心配そうな瞳と視線がぶつかる。

「ヒカル…、頑張れる?」

優しく聞いてくるアキラに、ふいに涙が出そうになるが、グッとガマンをする。

(そう…決めたんだ、佐為に近づくために…。こんなところで、躓けない!!)

ヒカルは、もう一度覚悟を決めると、上を向く。

「オレ、やるって決めたんだ、やってやるよ!!」

その眼差しはとても、力強くて…、アキラは眩しそうに目を細める。
そんなアキラにヒカルが気づいて、照れくさそうに笑うと。と…、アキラは 目を背けて、

「ヒカル、先に言っておくけど、佐為様の元に引き取られていた事は誰にも話しては行けないよ。」

それは、何度もこの入学式までの間に言われた事であった。
ヒカルの出生への手がかりは佐為にある。
その為、佐為との関係は秘密にしなければならない。

ヒカル自身、自分の出生に秘密があるとは知らない。
その為、この事は「誰しもに尊敬されている佐為と関わりがあることが分かると、周りが混乱をするから」 という理由(実際、間違いなく周囲は混乱するであろうから…)を行洋が説明し、棋院へ推薦する条件の一つとして約束をさせた。

だから、ヒカルのほうも

「分かってるよ!絶対言わない!!約束したもんな」

もう、分かってんだよ!と、うるさそうに答える。

「そう…それならいいんだけど。」

そんないつもと変わらないヒカルとのやり取り。
しかし、この棋院の中では、そうしていられないのだ…。
アキラは、自分の考えを振り払うようにゆっくりと歩き出す。
その後を、ヒカルがついてくるのを感じながら、アキラは搾り出すようにヒカルに呼びかける。

「ヒカル…新入段の者は、半年間学校に通うことと、学校以外の時間をキャリアのある者の下で学ぶ事が義務づけられている。僕は 1年目でキャリアがあるとは いい難いが、志願して認められた。」

「 えっ、じゃあ?」

「うん、僕がキミの担当だ。」

思わぬことに、嬉しそうに笑うヒカルに、アキラは言いにくそうに眉を寄せ…

「それで、これからはキミの事を進藤と呼ぶから」

「えっ!?」

いつも自分の味方であり、碁のライバルであるアキラと一緒にいれるのかと喜んでいたヒカルは、行き成り言われた提案に思わず声を上げてしまう。

「教えるものと教わるものが、名前で呼びあうのはおかしい。先にも言ったように、 ここでは礼儀も見られているからね。」

アキラの真剣な眼差しに、これから自分の進む道の険しさ感じる。

でも…

「分かった。オレも塔矢って呼ぶから…。」

そう言ってまっすぐアキラを見つめ返すと、アキラは少し悲しそうな顔をした。





それから暫く歩いて…ようやく、大きな扉の前に着くと、アキラが立ち止まってヒカルを見つめる。

「いいかい?進藤。」

先程言ったとおりに、名字で呼んでくるアキラに、ヒカルは胸にコトンと何かが落ちるような感覚を覚えた。

(何…?なんか…やだ…)

初めて呼ばれた名字での呼び方は、妙によそよそしく…アキラを遠くに感じてしまう。

ヒカルのその戸惑いを、緊張の為だと理解したアキラが、優しく笑って ヒカルの 背中をさすってくれる。

「大丈夫。キミの力は認められているんだから」

その優しい眼差しに、いつもと変わらないアキラを感じることが出来て、ようやくヒカルも頷く。

そして、

『トントン』

「入りたまえ」

二人は大きな扉をあけた。

 

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長いでございます。早くラブらぶな二人を書きたいのですが、道のりは遠そうでございます。