★Angel〜還る場所〜16★


「なあ、アキラ…」

「ん?何?ホラ、ヒカルここ…ついてるよ?」

アキラは、サンドイッチにかぶりついて口の周りにパンくずを付けているヒカルの口元を拭いてやると心なしか俯き気味なヒカルの顔を覗き込む。

「オマエって、ホントはスゲェーヤツなんだな。」
「?どうしたの?」
「なんか、オレでいいのかな?お前の同室者…」
「?ヒカル?誰かに何か言われたの??」

ヒカルのあまりに、落ち込んだ姿に、アキラは嫌な予感を感じて肩を強めに掴む。

「別に…ただ、オマエってすごい注目されてるんだなぁと思って…。オレ…今日の授業殆ど分かんなかった…。」

そんなオレでいいのかなぁ?

いつもなら、目の前のパンなど5分も立たずに食べてしまうヒカルの元気の無い姿に、アキラは無理やり顔を上げさせる。

「ヒカル!授業なんて、僕が教える。キミは、遅れて入所したしこれまでだって、勉強してこなかったんだから仕方ない。でも、気持ちで負けちゃ駄目だ!キミには目標が…目指す場所があるだろう??」

甘えを許さないアキラの真っ直ぐな声が、ヒカルを普段の自分に引きもどす。

「わりぃ。オレ…ちょっと、驚いた事が多くて…。そうだよな、気持ちで負けてちゃ駄目だよな…。」

そういうと、力強くうなづいて、もう一度パンにかじりつく。
その姿に、安心して

「ホラ、また…」

そういうと、アキラはヒカルの口をぬぐった。

昼休みが終わり、ヒカルが教室に戻ると相変わらず…より一層、ヒカルに対する視線は強くなっていた。
塔矢アキラの特別…、噂には聞いていても実際にその様子を目の当たりにしたアキラのファン達の心境は複雑だ。
ただ、ヒカルを見る目だけがより一層ねたましげに…または、うらやましげに光るのだった。

そんな気配を感じて背筋が寒くなるのを感じたヒカルは、握った手をさらにつよくする。

(オレ、負ねぇ!!)

アキラが、崇拝されるほど実力がある事は知っているけれど、それでも現実に初めて直視したことでヒカルはアキラとの距離を感じた。
授業についていけなかったことで、落ち込みもした。

だが…

(オレには、目的があるから…)

だから、真っ直ぐにアキラの背中を追うことだけを…今は、彼のライバルだと認められる事だけを、考えよう。
それが、佐為に続く道…。

 

そう思うと向けられる視線も、辛くは無い。
ヒカルは、午後からの初めての棋院での対局で、白星を収めた。

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「ふんふ〜ん」

初めての棋院での対局を好調に滑り出したヒカルは帰宅後も上機嫌で、今も鼻歌交じりに風呂から出るくらいだ。
その様子をため息混じりに捉えると、アキラはまだ熱気に包まれたヒカルの傍に立つ。

「ヒカル…ほらパジャマが…」

昨日のように、タオル一枚で出てくる事はなくなったものの、だらしなくパジャマを羽織るだけで出てきたヒカルに、アキラはその胸元のボタンに手をのばした。

「え〜あち〜じゃん!」
「だめだ。」

ボタンを留めてもらいながら、ヒカルは思い出したようにクスクス笑う。
その子供のようないたずらを思い出したような声に、アキラもふと目を和らげながらヒカルへ首をかしげた。

「どうしたの?」

「ん〜、ちょっと思い出したんだ。だってさ、今日和谷がさ〜」

ヒカルが、楽しそうに今日会った事を話す。

それでなくても、一日緊張しっぱなしだった上、仕事が押していたアキラとは夕食の時間も合わずに今ようやく、こうして顔を合わせたのだ。
今日、自分が勝ちを収めたことを早く言いたくてむずむずしていたヒカルは、同じ教室の和谷からもらったほめ言葉をアキラに自慢したくて、つい笑いがこぼれたのだった。

だが、そんな彼の楽しそう案様子をさえぎるように、アキラは一番上のボタンを閉じる。
窮屈な首元に、顔をしかめるヒカルの胸を軽く叩くと

「ホラ!キミは、髪を乾かして早く寝ること!明日起きれないと困るだろ?」

嬉しい報告をさえぎられたのと、強い調子で言いつけられたことに、何時ものアキラとの楽しい時間が急速に失われていくのを感じて、ヒカルがつまらなそうに口を尖らせる。

「なんか…お前つまんない。」
ヒカルにしてみれば、今までと違うアキラに対しての…唯の抗議であり、ちょっとすねていただけであるが、その小さくつぶやかれる言葉に、アキラの眉間にしわがよる。

「ヒカル。君はここに勉強に来ているんだろう?遊びじゃないんだ!遅刻して困るのは君なんだからな!」

強く言い聞かせると、ヒカルも少し腹立たしげに口を開こうとして、

「そんなん、わかってるよ…。」

そういって、悔しそうに唇をかむヒカルの顔に、少しきつく言い過ぎた…と思っても、過ぎてしまったことには違いなく、
彼の悲しげな顔から、視線をはずすとアキラは自分の着替えをクローゼットから取り出す。

「ヒカル、今日からはキミは一人で寝るんだよ。」

明日の準備をしながら、ヒカルを見ないように、アキラは淡々とその言葉をつげた。
アキラにしてみれば、それは、昨晩から考えていたことだ。
ヒカルに想いを寄せている事に気づいてからのアキラにとって、同じベットで寝ることは喜びであり、拷問だ。

だが、二人の仲は教官と生徒という立場であっても、部屋に戻れば今までと同じく仲の良いライバルで友達で…と考えていたヒカルにとっては正に、晴天の霹靂だ。
はじかれたように、顔をあげる。

「え!何でだよ!昨日は…」

当然、今夜も一緒に寝るのだとばかり思っていたヒカルは驚いて声を上げる。

「昨日は、キミが寒がっていたからだ。今日は暑いって言ってるくらいだから平気
だろ?家のベットの違って狭いんだから、我慢してくれ!」

言うだけ言うと、アキラは風呂場へと足をむける。

「何だよ!アキラのばか!!」

浴室の扉を閉めた同時に、ヒカルの大きな声が響いて、アキラはため息をついた。

 

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すれ違う思い…。