★Angel〜還る場所〜13★
その不思議そうな声に、二人が仲良しだと思っていた和泉は驚いて、声をあげる。
「じゃあ、行って来るな!」
明るい笑顔でヒカルは、アキラを振り返る。
「うん、初日だから…頑張ってね。」
それに答えるようにアキラも微笑みうなずく。
「じゃあ、失礼します。」
和泉がにこやかに微笑むと、和谷がそれに習ってちょこんと首を下げる。
アキラも笑顔で三人を見送っていた。
彼らの背中が見えなくなるまでは…。
『それにオレ、囲碁抜きで遊ぶのって初めてだったから…楽しかったしさ〜』
ヒカルの姿が見えなくなると、アキラは体の向きをかえ、仕事場へと足を進める。
そこに表情は無く、道行くものはその気迫に道を開けるほどであった。
アキラの胸には、ヒカルの無邪気な声が何度もこだまする。
(ヒカルに友達がいるなんて思ってもいなかった…。)
自分にはヒカル…。
ヒカルには自分…。
何故それが自然だと…それが当りまえなのだと思うことが出来たのだろうか…。
ヒカルに傍に居ると告げた…。
だがそれは、神の城に共に進むと…囲碁を通して…一緒に打ち続けると。
そういうことなのだ。
自分とヒカルには囲碁のみで繋がっている。
佐為と…ヒカルの出生の秘密を除けば。
その事が今、重くのしかかる。
自分の気持ちに気づいてしまった今、アキラはヒカルの全てでありたかった。
そして今朝までは、何も知らないヒカルのそばに一番近く…そして彼に頼られる人物は自分である…と、自分しかいないと疑いすらしなかったのだ。
食堂で慣れなれしくヒカルに話しかける和谷という人物が現れてからの短い時間が、とても長く感じられた。
彼との閉ざされた二人だけの世界を急にこじ開けられた気がして。
和谷という人物は、ヒカルとは囲碁以外での出会いを持ち、そしてヒカルの信頼を得ているようであった。
彼はアキラを知っているといったが、昨年打った事すら記憶にないアキラにとって、囲碁での実力は分かるはずがない。
ただ、今風に髪型に明るい様子の顔が整った少年…。
アキラが人目でみて、和谷に感じたことはその事だけだ。
佐為に引き取られた後、佐為はもちろん自分や父・行洋…と、ヒカルを取り巻く環境は囲碁に関わる天使が殆どだった。
囲碁を介さない出会いは、ヒカルにとってどんなにか新鮮だったのだろうか…。
ただ苛立ちと不安だけが、今アキラを支配していた。
◆14へ◆
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