★Angel〜還る場所〜12★


ヒカルが決意を新たに、口を引き締めていると…そんなヒカルの顔を覗き込むように、和泉にしかられてずっと大人しくしていた和谷が見つめる。

「おまえ、結構打てるんだ?」


その不思議そうな声に、二人が仲良しだと思っていた和泉は驚いて、声をあげる。

「和谷!彼と打ったこと無いのか?」
「え?うーん。俺たちいつも、外で遊んでる時にたまたま、一緒になるだけだったし…。」

「なっ?」

というように和谷がヒカルに目をむける。

思えば不思議な子だったのだ、ヒカルは。
はじめは少し離れたところから、興味津々と言うように自分を見ていた。
いつまでも離れない視線に堪らなくなった和谷が話しかけると、嬉しそうにしゃべりだす。
あまりにも色々なことを知らないヒカルに不思議に思った和谷が、どこから来たのか聞くといい淀む。
なのに、妙なことには自分なんかよりもずっと詳しいのだ。
きっといい所の坊ちゃんで、自分とは二度と会わないような人種なのだろう…と思っていたのに、それから何度もヒカルは和谷に会いにやって来たのだった。
初めはいかぶしく思っていた和谷も、明るくて無邪気なヒカルに…次第に弟でも出来たような気分になっていた。
和屋の入所が決まり、なかなかヒカルと会えなくなってしまったが…休みになれば、和谷はヒカルと会うために出来るだけ出会った広場に訪れていたのだ。
その位、和谷にとってヒカルは親しい友人であり、可愛い弟のように思っていたのである。
もちろん、棋院に入ってからも事ある毎に同室の冴木や仲のいい和泉にも「俺の弟分が」とヒカルの話を聞かせていた。

「お前、何で言わなかったんだよ。」

ヒカルの事ならなんでも知っているような気がしていただけに(実際はどこの子かも知らなかったのだが…)隠し事をされたような気がして元が真っ直ぐな和谷は、少し口をへの字に曲げてヒカルをにらみつける。

「だって、和谷だって言わなかったじゃん。」

ヒカルが、眉をひそめて反論すると、

「オレは言ったぞ!」

きっぱりいいきる和谷。

「それ入所するちょっと前じゃん。それからって、和谷が忙しくって打つ時間なんてなかったしさ。」
「うっ!」

ヒカルの切り返しに、和谷が一瞬ひるむ。
と、それまで和谷に攻められていてふくれっ面をしていたヒカルが、ちょっと俯く。
「なんだ?」と和谷がその顔を覗き込もうとすると、小さな声で

「それにオレ、囲碁抜きで遊ぶのって初めてだったから…楽しかったしんだよ…」

照れたように言うヒカルの言葉に、和谷もすっかり機嫌を直した。

「ハハ。お前ってホント変なのな!」

根が真っ直ぐで、そして拘らない性格の和谷は、豪快に笑うと

「ま、これからも宜しくな!」

そういって、ヒカルの頭をグリグリと片手でかき混ぜる。
「わ!和谷〜!!」
「アハハ!進藤、お前わかんね〜事があったら何でもオレに聞けよ!」

ヒカルが慌てて髪を整えるのを楽しそうに見ながら、和谷が笑う。
その顔がいつも遊んでいた時の和谷と同じで…やっとヒカルは、安心していつものように口をきけるようになった。

「大丈夫かよ〜、本当に!?」

軽く言い合っては笑う二人につられて和泉も笑う。
笑い声が和やかに響くそのテーブルで、笑っていないもう一人の顔をみたら、和谷もヒカルの鼻をつかんだ手を急いで引っ込めた事だろう…。

 

 

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