★愛情大盛り物語3★
「な、ここでいい?」
暫く歩いていると、中の見えないような喫茶店風の店の前で彼が僕を仰ぐ。
「いいけど、ここは何が置いてるんだろう?」
「パスタだよ。でも、お前んちって食べなさそうなイメージだからなぁ〜」
彼が呆れたような口調でいうので、僕はムッとして
「別に、ここでいいって言ってるだろう。それに、僕だってスパゲッティーぐらい食べる!」
そういうと、彼の脇を通り抜けて店の扉をあけた。
夜はバーでもやってそうな雰囲気な店だが、昼の時間もすぎ客は僕らのほかに一組しかいなかった。
僕は、店の奥の席に腰掛ける。
彼が、僕の目の前に座る。
しばらくお互い、無言でメニューに見入って…
僕がオーダーを決めて顔をあげると、彼はまだ迷っているようだった。
「何をそんなに、迷っているんだい?」
「ん〜、ここのデザート上手いんだよ…どれにしよっかな〜」
「あれ?キミ、食事はいいの?」
「流石のオレだって、さっき昼喰ってもう一食はくわねーよ」
「ふ〜ん」
そんなやり取りをしている間に、やっと彼も心を決めたようで
「よし、こないだ、コレは食ったから今日は全然違うやつ!!」
そう言うと、すぐ様注文を頼む仕草をする。
「ご注文はお決まりですか?」
母よりも上の年のウェイトレスさんがやってきて、無愛想に僕らに聞く。
「オレね、この木苺パフェ!!お前は?」
彼が、待ちきれないという笑顔で僕に笑いかける。
僕は一瞬迷ったが…
「僕は、このミートソースを大盛りで」
ウェイトレスさんが去ると、彼が不思議そうな顔で
「お前、大盛りなんて喰えんの?ここの大盛りって、すげー多いよ?」
「いいんだ。今日は食べたい気分なんだ」
「ふ〜ん。」
僕の答えに、彼はそのまま不思議そうにしていたけど、やがて水のカップについた水滴で遊び始めてしまった。
無邪気に遊ぶ彼。
近くに居るのに、僕は彼との共通の話題を見つけることが出来なくて…ただ、その姿を見つめているだけ。
聞きたいことは沢山あるのに。
(ここにはよく来るの?)
(誰と来たの?)
(どうして、僕と一緒に今居てくれているの?)
胸の中では、こんなに饒舌なのに…プライドが邪魔をして、どれも語りかける事が出来ない…。
どのくらいそうしていたのか…、ミートソースいい匂いがしてきて僕のスパゲッティーと彼のパフェが同時に来た。
予想をはるかに超えた大きな皿に僕は一瞬、目を丸くしていると
「なんか、すげ〜うまそ〜」
彼が、物欲しそうソレを見つめていて。
「食べる?」
そう聞くと
「だって…お前のじゃん。今日は食べたい気分なんだろう?」
彼が先ほどの僕の台詞を気にしているように上目遣いで僕をみる。
僕は、そんな彼がおかしくなって
「いいんだよ。もしかしたら、キミも食べるかな?と思って、大盛りにしたんだから」
僕は本心を白状して、ウェイトレスさんに取り皿をもらう。
その皿にスパゲッティーをよそって、彼の前に出すと、彼はびっくりしたような顔のまま
「お前っていいやつ〜」
そういって、嬉しそうに微笑んでくれた。
4 へ
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