★月が見ている★

月がでていれば、佐為がいるような気がするのに…。

家主のいない塔矢家の縁側で、オレは一人曇ってしまった空をボンヤリ眺めていた。

今日はオレの誕生日で、18になった。

棋院で手合いを終えて、院生の頃からの友達や取材部の人なんかに祝われて、そのままどんちゃん騒ぎでも使用かと思ってたら、手合いのなかったはずの塔矢アキラが笑顔に怒りを張り付かせてまま現れて、そのまま拉致られ、上手いフレンチに連れてかれて、塔矢家でしこたま打って、これでもかってほど二人っきりのお祝わいとやらをヤラレテ…


まぁ、結構嬉しくって楽しい誕生日だったんだと思う。

オレは、囲碁の棋士を職業にしていて高校には行かなかった。
イワユル中卒だけど、オレは全然後悔はしてない。
そりゃ、たまに幼馴染のあかりの学校の指導碁打ちに行ったり、対戦に負けてヘコンでる時なんかは、ちょっとはそういうのもアリだったかな、って思うこともある。

でも、碁だけを打ちたかったら…その気持ちは、オレが碁打ちで飯を食うようになった時よりもずっと強く思うから…後悔なんかしてない。

だから学生の時みたいに無条件に周りに誕生日を祝ってもらえることってないだろうなぁ…って思ってたけど…、勝負を離れてみれば皆いいやつばっかりで…オレは幸せなんだと思う。


好きな碁を打って、年を重ねて、仲間に祝われる。

そこに、佐為がいないだけ…。

考えが暗くなっちまったから、オレは星も月も見えない空から目をそらす。

18…変わったことといえば、結婚できるようになったことと免許が取れるようになったことくらいか…。

そんなことを考えて、なんだか可笑しくなった。

オレが結婚するっていったら…アイツどうするかな?
オレが免許とるっていたら、危ないからやめろとかいうかな?

今は二階の自室で眠っている、強引で強くて…そして美しい恋人を思い浮かべる。
浮かんできた彼の顔は、いつもの怒った目をして…そして自分をまっすぐに見つめていて…。
なんとなく、オレは顔が赤くなった。

ふと、今の壁にかかる時計に目をやると、あと10分で日付が変わることを教えてくれる。

佐為…オレの誕生日おわっちまうよ…?

オレはあきらめられない気持ちで空をみた。

佐為とは何度一緒に月を見ただろう。
アイツは、自然の美しいものが好きだったから…打たない夜は飽きずに月を見てたっけ。
オレはそんな時間が好きで…意識してなかったけど、大好きで。
アイツがいなくなった今は、アイツに会える気がして月を見たりする。
美しくて最強な棋士…月は、あの優しい人に似ている…。


「佐為…オレ、18になったんだよ…」

お前がいないのに…。

いつも思っている、その言葉が今日はやけに悲しく胸に広がる。

今のオレ…お前がみたら何ていうかな?

窓に映る自分をみる。
多分彼が消えてしまった15の時よりは、背も伸びた。
とは言え、やはり小柄で18の男にしては細っこいのが、悩みの種だ。
憎らしいライバル件恋人は、折れそうな細さが可愛いだのなんだの…自分がちょっとガタイがよくて、男らしい体型だからってあほな事いってるけど…正直うれしくない。


実際、ヒカルは幼かった頃の丸みを帯びた可愛らしい元気な子供から、華奢とも可憐ともいえる印象に変わり、大きい目はより美しく見え、儚げで浮き立ったものにみせていると、ファンや一部棋士達の中でも評判なのだが…ヒカルはそういったことには興味がない。

男らしいキリリとした美しさなら、自分のライバルを。
華やぎに彩られた美しさなら、確かに自分にだけ見えていた囲碁幽霊を。
自分は見慣れすぎている。

今は居ない、彼の美しい顔を思い浮かべながら、

オレちったぁ大人になったのかな?
お前は喜んでくれてる?

あんなに犬っころみたいで自分を困らせたり、けんかをしたり、はしゃぎまくったりしていた佐為なのに、浮かんでくる顔は穏やかで優しい目を自分に向けてくれる。
今夜は隠れてしまっている月のように穏やかで…そして孤高で寂しい。

佐為の事を考えて空をみてたら、オレの体は急に後ろから強く引っ張られた。

「うわぁ!!」

バッサっと当然畳に倒れるかと思ったら、暖かい腕に力強く抱きしめられていた。

「とう…や…」
「進藤…」

苦しいぐらいに抱きしめてくるおかっぱな貴公子は、下からみても切なそうな顔をしている。

「君がどこかに行ってしまうかと思ったから…。」

月に帰ってしまったかぐや姫のように。

こいつって、急に乙女チックなことを真顔でいうんだよな〜。
まぁそんな事言われたくもないだろうから言わないけど…。

と、思いながらオレは「可愛い」と言われて困惑するアキラを思い描いて、プッとふきだしてしまった。

「ばか…何言ってんだよ。オレはここにいるだろ?」

オレが、クスクス笑うとアキラのやつは急に後ろに耳たぶを優しく噛んできた。
「あっ…」

不意打ちだったから、オレは体が一瞬震えちゃって声まで出ちまう。
文句の一つもいってやろうと、身構えると、今度は耳元に口をつけられ息をふきかけられる。

「僕は馬鹿だから…君がちゃんとここにいるか、肌で感じないとわからないな?」

オレは、耳にあたる生暖かい息がくすぐったくて、感じてしまいそうになるのを必死で抑えてアキラから抜け出そうとする。
でも、最近すっかり体格に差がでちまったから、がっしり後ろから抱きしめられていると簡単に抜け出すことができない。
なんだかソレが、男としてのプライドってやつを刺激されて…、塔矢のやつを下からにらんでやったら、今度はオレの目の横に触れるようなキスをしてきた。
またも不意打ちをもらい、思わず目をとじて体を強張らせたのが運のつき(?)
いきなり、塔矢に押し倒されて気付いたときには、こいつに借りたこいつのパジャマの下のオレの胸をマサグラレテ…。
あまりの行動の早さに、流石・塔矢アキラというべきか…。
さっきまで、あんなに弄られてたそこはオレの理性に逆らってくすぐったい様な甘さを感じて、また声がでちまった。

「っちょ…!も…あんなにしただろ…?」
「駄目、足りないよ…?」
「何言ってんだよ、絶倫男!つきあってられるか」

なんだか自分の声が、かすれてイヤらしく感じたけど…流されエッチなんてイヤだから、必死に抵抗した。塔矢の器用な指がオレの弱いところを撫でてて、気持ちよくって目がうるんできたけど、決死の力と理性でヤツの下から逃れる。

「も…いいかげんにしろよ!!」

息も絶え絶えにどなってやると、甘い気分だったらしいアイツもちょっと不機嫌な顔になった。

「なんで、そんなに嫌がるんだ?僕が嫌なの?だって、エッチするのは嫌いじゃないよね?あんなに感じてるんだから!」

アイツがわざとオレが嫌がる言い方をしてるのは分かってた。
でも、あまりの悔しさと恥ずかしさに、オレは顔が赤くなる。

確かにヤッテル最中オレは訳が分からなくなってるし、塔矢の背中にあるアレの後の傷をみると、かなり申し訳ないと思う…。
きっと、声だって抑えられてない…。
だけど…。

「お前…意地がワルイ…」

自分でどうになるわけでもないことを責められたような気持ちになって…。
自分が変態みたいな気がして…。
塔矢のことがムカついた。
さっきまで、幸せな気分だったのに…。
月も出てないし…、こんな喧嘩はするし…。
悲しくなって俯いてたら、ヤツも反省したのかため息をついて誤ってきた。

「ごめん…進藤。折角君の誕生日なのに…。でも、日付が変わる前にもう一度祝いたかったのに君がいなかったから…寂しくなったんだ」

オレの誕生日なの勝手なことを言うこいつに、腹も立たず…逆に可愛くなった。
なんで、オレこんなにこいつが好きなのかな?


「オレもごめん…」

謝って塔矢に照れ笑いを向けると、塔矢がオレに優しい目を向けておでこに優しくキスしてくれた。
結局オレ達は、また二階の塔矢の部屋にもどりスル事をしちゃったりして…。

また汗をかいて、ぐったりするオレの前髪を飽きもせずに塔矢が何度も何度もすいてくれる。
それが気持ちよくって…うっとりしていると、

「進藤…さっき下でなにしてたの…?」

って聞いてきた。
まさか素直に、佐為のことを考えていていました…なんて言ったら、またいらぬヤキモチをやかれ、そのままエッチになだれ込まれるに違いない…。
流石にオレも身体がもたなわけで…ここはやはり、佐為の事だけ言わないでおくことにした。

「別に…月がちょっと見たかったから」

ま…曇ってて見えなかったけどな…とオレが笑うと、塔矢のヤツが急にきつく抱きしめてきた。

「ちょ…塔矢…痛い…。なんだよ…」
「そんなもの見ないで…僕だけ見てて…。」
「はぁ?ばか…」
「僕は馬鹿だよ…。例え月でも、君の心を奪うものは許せない…。」

果てしなく底知れない、コイツの独占欲ってやつに眩暈を覚えて、オレは

「ばか…」

力なく呟くしかなかった。

でも、オレの上で満足げに微笑むおバカな恋人の綺麗な顔をみていたら、すごく胸があったかくなって意識を眠りを手放そうとしたとき塔矢の声が聞こえる。

「進藤…、月ってね。たとえ見えなくってもいつも空の上にあるんだよ。」
「ん…」
「だからね、僕達から見えなくっても、向こうから見守ってくれてるよ」

なんだって、コイツはオレが言わなくってもオレの事が分かるんだろう?
佐為のこと…コイツにちゃんと言ったことはまだない…。
なのに、これってまるで、佐為は見えないけど…きっと見守っててくれてる…って言ってるように聞こえる。

とんでもなく強引で…ヤキモチやきで…世間知らずで、結構困ったやつだけど…オレの欲しい言葉を欲しいときにくれたりする。
それって、いつもオレを見ててくれるからだよな!

嬉しくなったら、涙が出そうになって…でも、ヤツに涙なんて見せたくなくって…オレは

「も…お前ももう寝ろ!」

怒ったようにいって、オレの上からオレを見下ろしてた塔矢を押し倒して、その胸に顔を押し付けてやった。

素肌のままの、塔矢の汗ばんだ胸に耳を寄せてるとコイツの鼓動が聞こえる。
その鼓動を子守唄にオレは今度こそ眠りに入る。

日付はいつの間にか変わってる。

でも…。

ネェ佐為…。お前には会えなかったけど、今日オレ18になったよ。
オレ今幸せだから…。