7/2…イベント当日
--アキラ--
「ただいま〜」
扉が開く音がして…ドサドサ…ガサ…ドガドガ…進藤が立てる音は、ともかく大抵大きい。
それでも、僕には彼がようやくこの家に帰ってきてくれた…という実感をくれる大切な音だ。
僕は自分でも愚かだと思うくらいに、いつもおびえているんだ…彼がいなくなっていしまうことに…彼がいつも匂わせる…別れの香りに…。
「塔矢?」
僕は、目に飛び込んできた鮮やかな…その黄色い頭…その下にある小さな白い顔に浮かぶ大きな瞳…それを捕らえて、もう一度安堵する。
「おかえり…」
「うん…ただいま…」
僕がいきなり元気がないことに、彼も表情を曇らせるのがわかって…僕は無理やり笑顔を作る。
「どうだった?舞台。みんな喜んでくれた?」
いきなり話題を変えた僕に不思議そうな顔を見せる彼に、これ以上心配をかけたくなくて僕は、席を立ってお茶の用意をする。
「飲むよね?」
進藤は、今風の彼には似合わず日本茶が好きだ。
そんな彼のために、静岡から取り寄せた茶筒に手をかける。
「うん、飲む飲む。」
そういいながら、ソファーにドサッと沈み込むと
「はぁ〜、つかれた〜〜」
「評判だったの?」
「うん、先生たちもさ、喜んじゃって…あ、もちろん子供もな!すごかったんだぜ!!」
進藤は、そのときを思い出すかのように、僕のほうに身を乗り出して急に現れた織姫の話…台詞をとちりそうになったこと…門脇さんのナレーションがうまかったこと…などを話続けた。
(よかった…ばれてない…)
彼が織姫の話をするたびに、僕の心臓は小さく震えるけど、ここでそんな素振りを出したら、勘のいい彼には気づかれてしまうから…と不自然じゃないように、ペアで買った彼の方の湯飲みを差し出しながら、笑顔で彼の話を聞く。
彼はそんな僕には気づかないように、何度も織姫の話をする。
「和屋のやつなんかさ〜、すっごい可愛い!とか言っちゃってさ。」
「織姫ちゃんとか呼んでんの!でも本当にあの子来てくれなかったら困ったしさ…」
「オレのファンなんだってさ!めちゃくちゃ、衣装似合ってたぜ〜、ホント日本美人ってあーゆーの言うのな!」
…僕は…笑顔できいていれただろうか?
「そんなに可愛かったの?その子…?」
「ん?あー、めちゃくちゃ!お前にも見せたかったくらい!!」
そう言いながら、彼はそのこの事を思い出すかのように僕の後ろのほうを見るような瞳をして…
(もう…我慢できない…!!)
「じゃあ!君は、そのこの事気に入ったんだ!!好きになったの?女の子だから?可愛いから??」
僕の心は、今までにないくらいに荒れてたと思う。
(進藤の馬鹿!無神経!!鈍感!!!)
自分のした事の愚かさなんて忘れて彼を罵って今すぐ彼をめちゃくちゃにして…誰にも見せたくなくて…誰も見せたくなくって…
僕は彼の肩を夢中で掴んでしまった。
なのに…なのに…彼は笑顔で僕の目を見たんだ…。
「お前だから…」
「え…?」
彼のいつも高い声が、低く僕の耳に響く。
「お前だから、忘れられなかった…」
そういって彼は僕の髪に手を伸ばす…。
「オレが分かんないとでも思ってんの?」
お前のことなら…なんでも知ってるのに?
そう言っておかしそうな顔で笑う君の顔はとても幸せそうで、とてもきれいで…その逆に僕はどんなに、間抜けな顔をしてただろう?
「気づいて…」
「当たり前だろ?化粧してたってマンマじゃん!」 なんで皆気づかないんだろう?
とまた、猫みたいに笑って…。
僕は、急に体の力が抜けて彼の…僕より小さな彼の肩に顔をうずめた。
「どうして僕だって?」
僕の小さくなった声に、おかしそうに笑うと…
「見た目からお前?って感じだったけど…確信したのは、この匂いかな?」
いつも一緒にいるからこそ、わかるんだぜ?…と彼が優しく僕の髪を撫でてくれるのに僕はウットリとする。 昔、母に頭を撫ぜられたときよりも…深い安らぎに、僕は思わず息を吐く。
「オレ、ホントびっくりしたんだからな?」
だから、そのお返し?と言いながら、僕に優しく覗き込む彼に、僕からのお返しを唇に返して…そのまま、形成逆転。
彼の上に、のしかかるともう一度彼に口付ける。
唇を離すと、彼が漏らす息が熱くて…
「なに、ニヤケてるんだよ?」
彼が、苦笑いをしながら僕の鼻を指ではじく。
「そんな顔してたかな?」
僕が、まじめに答えると、進藤は楽しそうに笑って
「お前って、ホント馬鹿!」
そう言って、僕を押しのけて立ち上がる。 このまま、なだれ込むつもりだったのに…僕は、何となくムッとして
「どうせ、馬鹿さ!誰がそうさせてるんだ?」
つい、嫌味のひとつも言いたくなって、座り込んだまま膨れて見せた。
「一年に一度じゃ足んないくらい、笑えるから!一生見せてろよ??」
オレのせいで馬鹿なお前を!!
そう言って、微笑んだいる彼は、とっても優しい顔をしていた。
始まりは、君が僕に内緒ごとをしようとしたこと…君が僕に隠し事ができないように…僕にも君には隠し事ができないみたい。
(僕が不安に思っていたことを…君は分かってくれたんだね…。)
「もちろん!君が嫌だと言っても!!」
僕は彼の横に立ち上がると、台所に向かって用意していたものを取り出す。
それを見て進藤も、一瞬目を大きく開いて、そして笑った。
「七夕本番まで、あともう少しだから、うちも笹を飾ろうと思って。」
僕がそういうと、彼も笑って
「悪くないじゃん!じゃ、それ飾って一局打たねえ?」
「じゃ、願い事を書いてから!」
そういうと、最後の仕上げに残しておいた二人分の赤い折り紙を引き出しから取り出す。
君は笑ってそれを、受けとって…そして、僕らは肩を並べた。
ねぇ、君は何を願うの?僕はね、ずっとこの言葉は書き続けるよ。
永久に君と…。
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