★喫煙者の憂鬱(?)★

 

棋院の喫煙コーナーは、ジュースの自動販売機の近くにある。

その日、緒方精次はいつものように、タバコを吸っていた。
日本は喫煙者にとって、なかなか住みにくい国になってきた為、白スーツの伊達男であろうとも、廊下の隅に設置された喫煙コーナーでの一服を余儀なくされるわけで…。

白い煙を吐き出しながら、先ほど中押しで勝利を挙げた対戦について思いをはせていると、目の端に黄色と黒のツートンカラーが見えた。
お堅い棋院で、そんな頭をしているヤツは一人しかいない。

「進藤。対戦はどうした」

今正にジュースを買おうと財布を取り出していた、ヒカルは急に話し掛けられて、驚いたように振りかえる。

「緒方先生…気がついてたんだ…」

「俺をなんだと思ってる?気付くに決まってるだろう…」

「だって…、さっきオレちゃんと頭下げたのに無視だったじゃん!」

「あ〜、そうか…すれは済まなかったな。」


そういいながら、タバコの煙を吐き出す緒方。

その煙がヒカルの目の前まできて…

「くさい!緒方先生!!」

目の大きい可愛い顔を思いっきりしかめて、ヒカルが訴えかけるので、逆に面白くなって緒方はまた煙をヒカルに吐きかける。

「も〜!わざとやんないでよ!!」

「すまんな。ここは喫煙所で、俺はタバコを吸っている。それだけだが、煙は煙が嫌いなヤツの所にいくっていうしな。」

そ知らぬ顔で、タバコをふかす緒方に、流石のヒカルも呆れたように緒方を見つめる。

「緒方先生って、一日何本すってんの?」

「3箱…くらいだな」

「え〜!そんなに吸うの!?吸いすぎ〜!!」

「うるさい!おまえんちの親父さんだって、そのぐらい吸うだろう」

「ウチの父さんはタバコ吸わないもん!」

威勢よく返事を返してくるヒカルに目を細めながら、緒方はタバコをつぶす。

「ま、お子様には分からんわな。」

そういうと、いつものような唇をあげるだけで笑うと、座っていた喫煙所の椅子から腰を上げ…、自動販売機に近づく。

「進藤、saiと打たせろ」

緒方がジュースでも買うのかと…場所を開けようとした瞬間に、『ガンッ』と音がするくらいに、緒方によって自動販売機に押し付けられたヒカルは身動きが取れない状態になってしまう。
しばらくそのまま、びっくりしているヒカルを見下ろしていた緒方だが、今度は先程まで吸っていたタバコの香りが分かる程、顔を近づけてきて…

「しってるんだろ?」

「…緒方先生……」

行き成り話題を変えて、グイっと自分の目の前まで迫ってきた緒方。
その意図は分からないが、佐為の事をバラすわけにはいかなくて…ヒカルは下がる場所がないのに、身体を更に硬い箱に背中をつける。

「ちょ…なんだよ…緒方先生。オレはシラネェって…。しつこいなぁ〜!」

ともかく、シラをきりとおさなければ…と、ちょっと怒って見せると…緒方は軽く笑って身体をヒカルから離す。

「ふん。そう簡単には吐かない…か。」

左程、落ち込む様子もなく緒方はヒカルを解放すると、そのまま自動販売機に小銭を入れる。

「何飲むんだ」

「え…?」

「ジュース。飲むんだろ?」

そういって、驚いて息を整えているヒカルを振り返る緒方の顔は、予想外に楽しそうで。優しくて…。

「えっと…、ポカリ…。」

緒方は言われたままに、ポカリスエットのボタンを押すと、落ちてきたジュースを受け取り口から取り出す。

まだ驚いたままのヒカルにそのジュースを渡す。

「ほら」

「え…、あ…ありがとう」

驚きながらも、御礼をいうヒカルの乱れてしまった前髪を撫でるように直すと、緒方はニヤリと笑って

「じゃぁな」

そういうと、軽くヒカルのおでこをおして去っていく緒方。

その背中を見ながら、行き場のなくなった財布をいつものリュックにしまおうとして、ふと気付き何かを取り出すヒカル。

「緒方先生!!」

手に取り出したものを隠しながら、エレベーター待ちをしている緒方のもとまで走ってくるとヒカルは、

「はい!」

といって、無理やり緒方の手に隠し持っていたものを渡す。

「…?なんだ」

緒方が手を開くと、ソコにはチュッパチャップスが…。

「俺がこんな棒つきの飴を舐めるように見えるか?」

「え〜、だって、俺の父さんさ…昔はタバコ吸ってたんだって」

「ああ?」

「だからね、昔は吸ってたんだけど…オレが生まれるときにやめたんだって」

「ふん。」

「そん時にね、飴舐めてやめったって言ってから…さ。あげるよ。」

「そうか…」

自分は、もとよりタバコをやめる気など更々ないのだ。
ヒカルの父のように、守るべきものがあり…その子を傷つけないように…またその子を守る為に自分が健康であるために…そんな事があるならば自分もやめるかもしれない。
でも、そんな日は自分には来ないだろう…。

感傷的になってしまった自分をらしくないと思いながら、飴を見つめていると

「緒方先生…」

ヒカルが覗き込むように緒方をみる。

「なんだ」

飴からヒカルへと顔を移すと、今度はヒカルのほうが緒方から目をそらし俯いてしまう。

黄色と黒のツートンのつむじをみつめていると、

「saiとは打たせてあげらんないけどさ…オレがもっと強くなるから…それまで待っててよ。」

そこまで、言い切ると思いっきりよく顔をあげてニコリと笑うヒカル。

その頭を勢いよく撫ぜると

「ふん。それは楽しみだが、いつになることやら…だな。まずは、名人戦を勝ち上がってから言ってくれ。」


「も〜、分かってるよ!だからさ!!緒方先生には長生きしてもらわなくっちゃ!」

「俺をいくつだと思ってるんだ…」

「あはは。タバコ少し控えめにしなよね!じゃ、ジュースありがと!!」

そういいながら、ヒカルはバックを置いたままにしてあるベンチに戻るため駆け出していく。


いつか…自分が楽しみにしている未来の話…。
若き天才達のもたらす新しい風の、自分は壁になるのだ。
だが、そんなことはこの若獅子たちには教える気はないが…。

(一日2箱にするか)

緒方は楽しそうな笑い顔を浮かべ、飴をスーツのポケットに入れエレベーターに乗り込んだ。

★おわり★

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その光景をエレベーター脇の階段から
しっかり見てしまった方がおりました……



   「緒方さん…進藤の髪を撫ぜましたね!」
  「緒方さん…進藤のおでこをおしましたね!」
「緒方さん…進藤にキスしそうなほど顔を近づけましたね!」

      (僕だってした事がないのに!!)


         ★今度こそ終わり★

その内、アキラさんの復讐(?)というか制裁(?)というか、そんな編を書きたいです
背景になっているイラストは、GALLERYにて展示中。そちらもどうぞ!!