★初恋(?)はチョコレート味★


若獅子戦で、オレは初めて生のアイツを見たんだ。

それまで、オレは若手の棋士の中でも、ヤツのライバルだって言われてる進藤ヒカルにずっと憧れてた。
院生出身で…その院生も半年もしないで二組から一組に上がって、一回目のプロ試験で受かったっていう、進藤の大胆で予想外な碁が大好きだった。
もちろん、今でも好きだ。

でも…。


あの若獅子戦では、目にも留めてもらえなかったけど…塔矢アキラはホントにすげ〜!
力強くて、強引で。
あれが、王者の碁っていうんだろ〜か?

でも、対局にくるアイツは、スゲェーつんとしてるし、とっつきにくい。
同じプロでも、和谷さんなんかは、院生が長かったからか、よく声をかけてくれるけどさ。

オレが見かける塔矢は、いつも一人だ。

そういうの見てると、オレはなんか寂しくなる。
知ってるやつで、寂しそうなヤツがいるのは嫌だ。
簡単に話しかけれるヤツなら、オレだって話しかけに行くさ。
でも…相手は塔矢アキラだ。

だから、アイツはいつも一人なのかな?

それでもって、今、オレは棋院のロビーで椅子に腰掛けている塔矢アキラを、見てた。
ヤツを見つけたのは、オレが対局を終えて帰ろうとした時。

ロビーの端のほうにの椅子に、エレベーターの方を伺うような遠い目をしたまま一人座っているアイツは、ちょっと…

(アレに似てるんだ…)


オレは、昔とーちゃんに連れてってもらった東京タワーの蝋人形館にいた人形を思いだした。
人間に似てるけど、人間じゃない。
綺麗だけど、生きてない。

あんなに、活き活きした碁を打つのに…アイツはホントは生きてないんじゃないかな?って思って、ちょっと恐かった。

だから、一歩も足を踏み出せなくなった。
それで、ずっと動かない塔矢アキラを離れたところから見ているだけだ。


途中、編集部の若い人が、アイツに気付いて、スゴイ量のチョコレートを渡そうとしてたけど…アイツは受け取らなかった。


どのくらい経ったんだろう?


オレ…、なんでかここから動けなくて…ジーとヤツをみている。

多分目線的には、オレが入っててもおかしくないと思うんだけど…、ヤツは面白いぐらいオレに気付かない。

(ホントに生きてないじゃね〜の?。それとも、ホントは人形かよ?)

でも、さっき編集部の人と話してたっから、そんなわけねぇ〜だろうけど、オレはなんだか悔しくて、腹立たしくてそう思うことにした。

すると…

アイツの顔が急に光ったみたいに、変わったんだ。

それは、人形が人間になった瞬間みたいで…。


オレは本気でびっくりしたし、ちょっと感動した。
あんなに嬉しそうな顔できんだ…。

そう思って、オレを通り越して注がれている、ヤツの視線の先を見る。

そこには、オレが憧れてたもう一人の人物。

「進藤!」

塔矢アキラが、笑顔で駆け寄ってくる。
そして、オレを通り過ぎて進藤の目の前で止まる。

オレは二人の邪魔にならないように、二人をそっと見る。

(コイツらって、結構仲いいって話だもんな)

ライバルだから、怒鳴りあってケンカもすることもあるらしい。

あの塔矢アキラが怒鳴る…。

考えられない事だけど、みんな、あの進藤相手じゃ…と認めてる(?)みたい。

ちょっと離れてっから、話は聞こえなかったけど、見た感じじゃ言い争ってるみたい。

これが、噂のケンカか??と、オレはミーハー心をだして、耳をダンボにする。

と…、


「これは!これは違う!!」

「何が違うってんだよ!?」

静かなロビーには、大きかった二人の声が響いて、オレ以外にもロビーにいた人が一斉にヤツらをみる。

と、塔矢が進藤をひっぱって、棋院の奥のほうにいっちまった。

あんまり奥の方は、オレ達院生じゃ入れないから、二人が消えた方に近づきながらウロウロしてると、奥の部屋が空いてヤツらが出てきた。

(二人とも、何だかスゲェー楽しそうじゃん。)


オレは、二人そろって棋院を後にする姿をオレはみながら

(いつか、アイツらの前に立ってやる!)

そう決意する。

まるで、オレがいなかったようになんてさせね〜からな!!
と、腹も立ってたけど、…ちょっと良かった…って思ったんだ。

塔矢アキラは人間だった。
クルクル表情が変わるったりして…、活き活きしてた。
碁をやってるときみたく、楽しそうだった。

(きっとそれは、オレのもう一人の尊敬する人の所為なんだろ?)

オレは、なんだか全部分かった気がして、ポケットに手を突っ込む。

手に何かあたって、取り出すと、今日奈瀬にもらったチョコレートが出てきた。

オレの気持ちがなんだったかなんて、ワカラネェ〜けど、口にほおり込んだチョコは、甘くて苦かった。

 

終わり


これで、バレンタイン企画はおしまいでございます。

アキヒカサイトなのに、浮気の○×ヒカを書いてしまう(でも、ベースにはアキヒカ!!は忘れません)ので、今回はアキラさんに恋心をもった男の子の話を書きたかったですが、恋…まではいきませんでした。(当然か)

この子は、庄司君のつもりです。敵視に近いものを持ってた人にコテンパンにされたら、気になってしょうがない人になっちゃうだろう…と思いまして。(なんのことやら。)