★Angel〜佐為が消えた〜8★

「アキラ…どうして?」

ヒカルが虎を撫ぜながら、アキラを見つめている。

その声…その瞳。

「ヒカル…ヒカルだ…」

アキラは、信じられない気持ちでヒカルの元へ歩み寄る。
近づくと、虎がうなり声を上げる。
ヒカルが、虎に向かって

「リオン、この人はオレの友達だからいいんだよ」

といって、なだめている。
自分から目を離して虎を見下ろしているヒカルの顎に手をかけ、自分のほうに顔を向けさせるアキラ。

「ヒカル…」

「アキラ…」

いつもの颯爽としたアキラでなく、少しやせて木々によって傷だらけになってしまったアキラ。
間違いなくそれは自分のせいなのだ。

「アキラ…ごめん…」

あやまろうとして、俯くと、急にアキラに抱きしめられ…と思ったら、アキラが崩れるようにその場に倒れた。
ヒカルの手を掴んだまま。

------------------------

次にアキラが目を覚ますと、そこには見慣れた柔らかそうな金色と、大きく広がる緑色が目に入ってきて。

(ここは…?)

倒れた事が分からないアキラは一瞬、自分の状況が分からなかったが

(ヒカル!!)

彼の事を思い出して、勢いよく身体を上げる。

「アキラ…起きた?大丈夫か??」

「ヒカル…!よかった…どこにも行かなくて!!」

「行こうにも…行けないじゃん」

そういうと、ヒカルは掴まれたままの手をアキラに見せる。

「キミが勝手に居なくなるからだ!!」

可笑しそうに笑っているヒカルに、今まで溜まっていた怒りのようなものが一気に爆発して、アキラはつい大きな声を出してしまう。

「ごめん…」

そんな、始めてみるアキラに、ヒカルもシュンとして俯いてしまう。
そんなヒカルのつむじを見ていて、アキラは自分が彼を叱りたくて来たわけではない…と深呼吸をする。

「ヒカル…一緒に帰ろう」

まっすぐにヒカルを見つめて、ヒカルの手を一層強く握り締めてアキラが言う。
ノロノロとヒカルは顔をあげて、そんなアキラの視線を悲しそうに見つめ返し

「オレ…ここに居る」

「えっ?」

まるで、考えてもいなかった答えに心臓をつかまれたようになってアキラは目を見開く。


「オレ…佐為のことココで待つ」

「何言ってるんだ…」

今まで静かだったヒカルが、急に興奮したように声を上げて、アキラの手を振りほどこうとする。

「オレに佐為、言ったんだ。ずっと一緒だって。だから、オレここで待つ」

「そんなことして、なんになる?彼はもう『神の城』にいったんだ。来るわけない!」

「うるさい!もう、ほっといてよ!!」

まるで駄々っ子のように、首をふるヒカルの手を強くもう一度握って、無理やりアキラのほうを向かせる。

「ほっとけない!!キミは僕のライバルだ!キミがいなかったら僕は神の一手が掴めない…」

「アキラ…」

アキラの強く…そして、小さく呟かれた声に、ヒカルも大人しくなって…

「ねぇ、ヒカル?佐為様は君の事を待っているんだよ。『神の城』で。キミは、もう小さかった何も知らないキミじゃないだろう?欲しいものを待っているだけでいいの??キミから会いに行かなくていいの?」

「……オレ…」

「キミは、そうやって自分の殻に閉じこもって…何もかも捨てるの?僕の事も…。」

悲しげに眉を寄せるアキラにヒカルは、言葉を失ってしまう。


「キミが佐為様に会える手段は一つだけ。キミが『神の城』に招かれるようになる事だ!」

考えても見なかった言葉に、ヒカルは大きい目を更に大きくさせる。

「……アキラ」

「キミなら出来る。そう思ったから、きっと佐為様はキミに囲碁を教え…そして一人残されたんだ」

「…佐為が…」

「キミが目指すんだよ。神の一手を…」

「オレが…」

ヒカルはアキラの言葉をかみ締めるように俯く。

いつも優しかった佐為。
何も出来なかった自分に囲碁を一から教え、可愛がってくれた大好きな佐為。
佐為の笑顔と共に、明子に言われた言葉が、また思い出される。


「佐為さまが貴方と離れるのが、悲しくなかったとでも思っているの?」

(きっと、アイツも悲しんだ…よな…)

「私が佐為さまなら、自分との別れの意味を考えもせず、ただ泣いているだけの貴方をみたら悲しく思うわ!!」

(お前、オレを呼んでるの…?)


自分だって分かっていたのだ。
待っていたって、彼は戻ってこない。
待っていたって、自分の愛しい人達に会うことは出来ない…。

(それなら、掴むまでだ…。オレは負けない…、負けれない…!)

もう二度と運命ってヤツに、自分の愛する人を奪われたりしない…。


ヒカルは顔をあげて、アキラを真っ直ぐに見つめる。

「オレ…やってみる。もう逃げない…。だって、オレ佐為が好きだから…。どんだけかかってもいいから、絶対佐為に会いに行く!!」

元気を取り戻したヒカルに、アキラも笑顔を向ける。

「そうだね!その時は僕も一緒だよ。」

「えっ?」

思わぬ言葉に、ヒカルが目を丸くすると、アキラが呆れたような顔でヒカルを見つめる。

「キミまさか、君が行けて僕が行けないとでも思っているの?」

「なんだそれ…」

すっかりいつもの調子のアキラに、思わず笑いがこぼれる。

「それに碁は、相手がいて初めて神の一手を掴めるんだから」

急に真剣に言われて、ヒカルはアキラの本気を感じる。

「だから、一緒に行こう。僕はキミを一人になんかしない」

「えっ?」

「ずっと、キミを探している間、ずっとキミ事を考えていたよ。」

「アキラ…」

「佐為様の代わりにはなれないけど、僕は絶対にキミを一人にさせないから…一緒に打っていこう」


強く自分の手首を握り、真っ直ぐに自分を見つめてくれるアキラにヒカルも胸が熱くなる。


「オレ…ここで、ずっと佐為のこと考えてた。」

「うん。」

「でも、マグネット碁するとお前の事思い出した」

「えっ?」

「碁を教えてくれたのは佐為だけど、オレに碁は面白いってことを教えてくれたのはお前だから…」

「…ヒカル」

「ごめんな。オレ、それさえも捨てようと思ってた…。だけど…悲しくて死にたくなったのに、オレ、碁打つたんびにお前と打ちたいと思ってた…。」

「…ヒカル…」

「ありがとうな、オレを探してくれて。オレやってみるよ。」

「うん。そうだね…」

輝くばかりのヒカルの笑顔を向けられて…改めて、まるで激しい愛の告白をしてしまった事に、アキラは気付き、急に恥ずかしくなってくるのだった。
そんなソワソワしているアキラの、顔を見ていてヒカルが急に顔を寄せてくる。

「アキラ血が出てる。」

あまりに近くなったヒカルの顔から、ドキドキして距離を置こうとするアキラ。

「あ…樹に引っ掛けたから。」

「リオンにやられたんじゃない?」

心配そうに、首をかしげるヒカルに、安心させるように笑顔を向ける。

「ああ…あの虎?リオンって言うのか…。そっちは、ぶつかられただけだからなんとも無いよ。でも、キミ本当に虎と友達だったんだな…」

昔聞いた戯言は本当だったのだ…と改めて感心するアキラに、ヒカルが少し悲しそうに笑う。

「ん、まぁ、動物しか会ったことなかったから…オレにとっては、大事な友達」

「そうか」

しんみりしてしまったヒカルに、アキラも優しい目を向けると、ヒカルも笑い返して

「でも、今はお前がいるモンな!!」

その楽しそうな笑顔に、アキラも嬉しくなって笑おうとすると

「イタッ」

傷が引きつれて痛む。そんなアキラを、心配そうに首をかしげてヒカルが傷を覗き込む。

「な、傷いてぇ?」

「ん、少し…でも大丈夫」

ヒカルに言われて、血が出ていた一番大きな傷に手を触れようとした瞬間に

『ペロリ』

ヒカルの顔が間近になって…生暖かい感触が頬に触れた。

「ヒカル??」

「これ、親父に教わった治癒方法。利くんだぜ。お前だって出来るだろう?」

天使には、自分の唾液で治癒を施す術がある。
それは、大体の天使ができるし、親から子へと教えられるものだけど…。

「そうだけど…、普通自分でやるもので…」

幼い頃は、両親にされる事もあったが、もとより品行良性なアキラが傷を作って帰ってくる事などなく…他人から治癒される事など殆どなかったアキラは、いまだかってない程、胸がバクバクしているのを感じる。
そんな慌てふためくアキラに、拒否されたと思ったヒカルがムキになってアキラの顔を両手でがっしり抑える。

「だって、顔なんて自分で舐めらんないじゃん。オレのせいなんだから、オレがやる!!」

そういうと、今度はおでこに出来た傷に口をつけるヒカル。
そうしていると、昔の事が思い出されて、つい笑いがこぼれてしまった。

「ふふ、佐為がオレを迎えに来たときも同じ事してやったんだ」

自分を迎えに来たとき、なれない森で傷だらけになった佐為に治癒を施してやったのだ。
その時、佐為は大人しくされるがままになっていた。
暖かい思い出…。

ちょっと懐かしさに胸が痛くなっていると、アキラがびっくりしたようにヒカルの手から顔をあげる。

「キミ、佐為様にもこんな事していたの??」

ついつい、キツイ声になっているアキラに驚きながらヒカルは首をかしげる。

「だって、アイツ大して体力もねーのに親父に頼まれたからって、ココまで来てズタボロだったんだぜ。」

ほっとけねーじゃん。といわれても、アキラの顔は恐いままで…。
ヒカルは困ったようにアキラをみて、そのときの事を思い出しながら遠くをみる。

「アイツさ…そんなのなのに、すげー綺麗だったの。優しい笑顔で…さ。」

懐かしそうに、愛しそうに言うヒカルに悔しくて、怒ったように

「樹の精霊みたいだった?」

アキラは前に聞いた言葉を繰り返す。
そんな不機嫌なアキラに、更に思い出し笑いをしながらヒカルが優しい目を向けてくる。

「今日お前が来てくれて…お前もさ。似てる。」

「え?」

急に向けられた笑顔に、アキラが驚いていると、ヒカルが自分の真上を仰ぐようにみる。
そこに広がるのは、青々とした美しい緑の葉。

「この菩提樹に。オレが一番好きな樹なんだぜ!!」

アキラも、つられるように頭上を見上げる。
一面、空まで広がる大きな樹はまるで、他の世界から自分達を隠しているようで…。
守ってくれているようで。

(きっと、僕が…キミを守るよ。)

この菩提樹のように…。

大きな決心をしたアキラとヒカルの上には、その前途を祝うようにまぶしい光がこぼれていた。

------------------------------------------------

やっと、終わった〜!ここまで読んでくださった方ありがとうございました。

二人の寮生活でいちゃこら…が書きたくて始まった、Angelですが…バックボーンがないと書けない私は、まず序章をちょっと書くか〜とか思ったら、思わず長くなってしまった…という次第です。(ご利用は計画的に…だわ。)
それにしても、読み直してみて…前半ボロボロです。ひどすぎ…です。ははは。
これからが、真骨頂。二人は寮生活に突入。
いちゃこらしてもらいます。(たぶん、裏メインになるかと思いますが…)

が、その前に番外編がはいるので。
よろしければ見てやってくださいね!!


 

◆佐為が消えた 編 おわり◆