ヒカル…君は今何処にいるの?
ヒカル…僕はここにいる。
ねぇ、ヒカル。
僕の事を呼んで…。
もし君が僕を呼んでくれれば…僕は…。
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春の暖かい日差しの中、美しい鳥達が楽しそうに塔矢邸の庭を飛び回る。
こんな日は、あの日のことを思いだすアキラだった。
そう、ヒカルと初めて出会った運命の日を。
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キミはあの日、僕らがお互いを紹介されて碁を打ったときが最初の出会いだと思っているだろうけれど本当は、その前に僕はキミを見つけていたんだよ?
この僕のお気に入りの場所で…。
あの時ここで笑っていた人たちが二人ともいないなんて…。 キミがここにいないなんて…。
あの時の僕は、佐為様に喜んでもらいたくてここに花を摘みに来たんだ。
僕は、最強を欲しいままにしながらも、いつも変わらず優しく美しい佐為様が大好きだった。
だから、この庭に咲く美しい花をプレゼントして、喜んでもらって、そして一局打ってもらおうと思っていた。
そうして花を摘みに来た…いつも美しい花が溢れていて大好きなこの場所…。
そこに、先にいたのがキミ…。
最初は、天使だとは思わなかったんだ。
だって、その時キミは色とりどりの鳥に囲まれて、全く見えなくなるほど埋もれてしまっていたから。
「あはは、お前達もういいだろぅ?佐為が待ってるから、オレもういかなくちゃ」
その、ちょっと高めの声が聞こえて、やっと誰かいることに僕は気付いて…。
佐為様の知り合いらしい、その人物を驚かさないようにと木陰に隠れるつもりだったんだけど、
『ポキッ』
足を踏み出した瞬間に、落ちていた枝を踏んでしまったら、その小さな物音で鳥達が一斉に羽ばたんだ。
僕は今でもそのときのことを忘れられないよ。
あの驚きを…。
…中から現れたキミを…。
鳥達が急に羽ばたいていったのをとても不思議そうな顔をして空を見上げていたキミ…。
その不思議な金色の前髪が優しい風に揺れるたびに僕は目が離せなくて…、濡れたような黒髪が頬にかかるのを見るたびに顔が赤くなるのを感じた…。
そんな事は初めてで…。
僕は、話しかけたくて…隠れていた木から、キミの前へ行こうとしたんだ。
そこに佐為様がキミを探しにいらした…。
「ヒカル〜!ここにいたのですか?」
「なんだよ〜。佐為が来たからみんな行っちゃったんだ〜!!もう!」
優しいく問いかける佐為様に向けられたキミの甘えたような表情。
僕には、今でも一度も見せてくれたことがないね…。
なぜ?
悔しいよ…何故、僕じゃないんだろう…。
僕は、その時も疎外感に、体中が締め付けられるような気分だった。
そんな気持ちは、生まれて初めて感じるもので…僕はキミ達二人の前に行く事が出来なかったんだ。
だって、僕が入り込める隙間なんてそこにはない…。
その時の僕は、どちらに嫉妬しているのか分からなかった…。
尊敬する大好きな佐為様と親しく話すキミに?
それとも、僕が話しかける事が出来なかったキミと楽しそうに話す佐為様に?
僕はただ、キミ達を木の陰から見つめることしかできなかった。
キミが、笑いながら口を尖らせるのを。
大きな目が、キラキラして…だれよりも表情が豊かなキミ。
そんなキミをたしなめるように佐為様が背中をおす。
「ヒカルが急にいなくなるからですよ。さ、これから行洋さんのご子息にお会いするんですからね。お行儀よく!ですよ?」
「え〜めんどくさい!!オレ、このまま佐為と花見に行きてぇ〜な!」
二人の会話からキミが、ヒカルという名前だという事をしって…胸をときめかした瞬間、キミの言葉に傷ついて。
行洋さんのご子息…っというのは、僕のことだ。
僕は、こんなにキミと話したいと思っているのに、キミの方はめんどくさいと言ったんだ。
またしても、悲しいに胸が締め付けられていると、キミは佐為様の腕に飛びついてじゃれるように抱きついて、満面の笑みで佐為様を見ている。
佐為様もとても幸せそうで…。
そう、とても幸せそうだったんだ。
僕は佐為様を知っているつもりだったけど…佐為様があんなに幸せそうな顔をしたことがあっただろうか?
囲碁をしているとき…佐為様はとても真剣で、楽しそうだ。
誰かと話しているとき…佐為様は誰にでも穏やかに優しく楽しそうだ。
でも…。
今、まとわりつく彼の頭をなぜる佐為様は今まで見たどんな時より、優しく笑っていた。
「仕方ないですね…。でも、今日は駄目ですから明日行きましょう?」
「ちぇ〜。絶対だぞ!!」
二人が楽しそうに笑う。
その時、その出来事が…その声がとても遠くに聞こえたんだ…。
キミは、何故僕を見てくれないの?僕に気付いてくれないの??
僕は、佐為様が来る前からここにいたのに…。
僕はここにいるのに…。
そう思って、とても悔しかった…。
だからかな?改めて屋敷の前の庭で、父にキミを紹介されたとき…僕は自分でも恥ずかしくなるくらいキミにきつい態度をとってしまったね。
佐為様と父に、キミと碁を打つように言われて…同じ年の佐為様の弟子であるキミと打つのが嬉しい半面、キミを力ずくで負かせてキミを僕の方にむかせたかったんだ。
キミは知っているかい?
僕がキミと打つとき、何を思いながら打っているか…。
僕をみて…。
僕はここにいるよ。
そうキミに話しかけていたんだよ。
でも、もうそんな事はやめるよ。 もう、僕は遠くから話しかける事さえ出来ない子供じゃない。
僕はキミを捕まえるよ。
キミと今離れて…僕は改めて、キミにここにいて欲しい。
僕の横にいて欲しい。
今度キミを捕まえたとき…、その時こそキミの瞳を僕だけに向けさせるよ。
もうキミを逃がさないから…待っていて。
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