鍋ぐつぐつ9★

「だぁ〜、もう駄目だ!喰えない!!」

ドサッと音を立てて、ヒカルが畳に倒れこむ。

「僕もだ〜!」

ヒカルの横に、アキラも倒れこむ。

いつもならば、そんなだらしない事をしたことがないアキラだが…

(なんだか、どうでもよくなってしまう…)

満腹に膨れたおなかでは、どっちの具が美味しいかとか、マナーとか、礼儀とか…

そんなことどうでもよくなってしまって、アキラはそんな自分が可笑しくて、嬉しい。
子供のケンカを酒のつまみにして酔っ払った緒方の車を、葦原が運転して、とっくの昔に帰ってしまった居間にはアキラとヒカルだけ。

だから、アキラは誰の目も気にしないで、大きく手を伸ばす。
こんな風に、人の目を気にしないなんて事今まであったろうか?
名人の父の息子として、常に見られる生活をしてきたアキラ。
意識はしていなかったが、自分はいつの間に緊張ばかりしていたのかもしれない…。

(進藤と一緒だと、自分は、すごく自由になれるのかもしれない…。)

アキラが満腹の頭で、こっそり思いながら目をつぶる。

「なぁ、塔矢」

「うん?」

「今日さ、楽しかったな」

「ふふ、そうだね。」

「結局、決着つかなかったけど、どっちも美味かったもんな。」

「うん。そうだね。」

「オジヤなんてサイコ〜だったよな!色んな味が混ざっててさ。」

「そうだね。あの緒方さんが、うなるぐらいだもんね。」

「今日は、オレ、新しい発見いっぱいしたぜ?鍋は、何入れても美味い!!ってな。」

「!」

「あっ、今お前…オレのこと馬鹿にしたろう??」

「フフ…違うよ。僕も、今日は色々と発見したなぁと思って。」

「そうか?」

「うん。」

ニコニコ楽しそうなヒカルを見ていると、アキラも嬉しくなって笑顔を向ける。

(キミとは違う意味で…だけど。)

満腹なおなかが、いつもより互いを身近に感じさせる。

「じゃ、またやろうな!」

「そうだね。」

約束だ!…と、ヒカルが手を伸ばし、アキラの小指に自分の小指を絡ませる。
いきなり触れ合った、人肌のぬくもりに一瞬驚いたアキラだったが、

「ハリセンボンだぞ!」

と言いながら、ニカッと笑うヒカルを見ていたら可笑しくなって、クスクス笑いだしてしまった。
そんな、楽しそうなアキラを見るのは初めてだったヒカルも、なんだか可笑しくなって笑い出す。
その後、二人は指を絡ませたまま、次の鍋に入れる食材の検討をするのであった。

夜が更けていくのも忘れて…。  

★お鍋ぐつぐつ おわり★

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非常にくだらない二人ですが、まだまだ恋愛前ということでお許しください。すっかり暑くなったのに、鍋の話題…。いやいや、これを書いたのは冬だったもので。